[ [ [ 喧嘩 ] ] ]
「えーっと」
「……家を追い出された上に財布も携帯電話も行く当てもないので上がらせて頂きますよ」
宅配便の配達員だと思ってゾロリが勢いよく扉を開けた途端、その男は姿を戻した。
小さい豆ダヌキは険悪な表情をしており、なおかつ顔には引っかき傷がいくつもある。服はところどころが焦げ、香ばしい香りすらする。全身汗ばんでおり、今はなんとか息を整えているものの、激しい運動をしてきたような印象があった。その迫力に負けて、思わずゾロリは傍若無人な侵入者を許してしまった。
つい先ほどまで生死をかけた戦いをしてきた負傷中の薬剤師は、家主の断りもなく靴を脱ぐと躊躇することなくリビングへと向かう。
どう対応すべきか考えあぐねて困り果て、困り果てた末にいや考えてもどうしようもないだろうという当然の結論に至ったゾロリがリビングに戻ってくると、ダポンは裾をたくしあげてソファの上に座って既に治療を始めていた。
左腕に酷い火傷の傷がある。皮が焼け、膿んでしまっている。火傷ゆえに、血はあまり流れていないから気がつかなかった。
「大丈夫か?」
「一応は。
……手加減なく突然やられましたからね」
この服で防御したのにこれほどの怪我になるとは、いったいどれだけの火力を持ってきたのか。
ダポンは考えるだけで頭が痛くなる。
ミリーは昔から容赦のない性格だと十二分に理解しているが、それにしても近頃魔法の腕がメキメキと上達してきているように感じる。……少しばかり、命の危険を感じつつ新たな対処法を模索していた。
暫く黙っていたゾロリは、どすんとソファーの横に座る。
「原因は?」
「俺です」
「悪いのは?」
「俺です」
「…………じゃあ、謝れば?」
「嫌です」
と、即座に返答が戻ってくる。
ゾロリは腕を組んで低く呻いた。どう説得して帰らせようかと考えているのだろう。包帯を巻き終わったダポンは、大きく溜息を吐いた。
「……貴方は、自分が悪かったからと言ってなんでもかんでも謝れますか?」
薬剤師の言葉に触発されて、キツネの中をある記憶がめぐった。
それは数日前。
フランダースの犬の映画を見て大泣きして読書中のロジャーに抱きついた。始めは軽く流されていたのだが、自分だけ泣いているのが悔しくなったゾロリはふと悪戯を思いついた。……そして悪戯を決行してロジャーを怒らせてその後色々あって―――
―――100パーセント悪いのはゾロリなのだが、いまだに謝っていない。というか、ロジャーに謝らせたくらいだ。不満そうな顔をしていたが、そんなこと知ったことかと散々怒声を浴びせた。
めちゃくちゃな答えだが、一理ある。
と、キツネが至るのにはそう時間はかからなかった。
ゾロリの表情から何かを読み取ったタヌキは、にやりと口を引き攣らせた。
よくわからないが上手くいった。
「じゃ、よろしくお願いします」
「ん、ああ」
生返事を返しつつ、ゾロリはロジャーとの喧嘩の記憶にはまり込む。自分が悪くはないとは思わないが、あの不満そうな表情がまだ胸にしこりのように残っている。
ああやっぱりまずかったかなぁーどうしよー。
悩むキツネの横でダポンは治療を再開する。
こうしてごり押しで入ってきた家なしっ子が新たな問題をロジャーとゾロリに持ち込むのであるが、それはまた別の話である。
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