[ [ [  ぐるっとまわって1回転 1  ] ] ]


 国民の誰もが一度は利用したことがある―――と評価される、ガオン公国一の巨大駅、セイント・G・ステーション。
 駅前の広場では、大荷物を抱えた、疲れた、しかしどこか楽しそうな顔をしている旅人達や乗客達に埋め尽くされていた。ここは始まりの駅で終わりの駅。メトロポリスの中央にあり、この駅から多くの長距離列車が地方に向けて発車する。
 山奥へ向かう列車もあれば、その山を越えてさらに海まで至る列車もある。発車時刻よりもかなり前に到着した乗客は、自分の順番が来るまでまだかとこの広場で待つのが習慣なのだ。彼らのために多くの土産店や、古今東西の屋台が立ち並ぶ。まるで、年中お祭りのような場所だった。
 何処も彼処も人だらけにもかかわらず、ゾロリはその姿を見つけることが出来たのは、本当に偶然だった。
 三人は並んでベンチに座っていた。イシシとノシシは春の日差しにぐぅすぅぴぃすぅと鼻提灯。間に挟まれたゾロリの前を、まるで大輪の牡丹が如き可愛らしい娘が通りがかった。
 お嫁さんにするならこんな娘がイイ、といつもの通りに一目惚れに落ち、いつもの通りその姿を目をハートにして追っていると、なんだか見慣れた姿が見えたような気がした。そして、まあそれもいつもの通りなことなのだが、美しい女性は待ち合わせ相手の男を見つけると一緒に遠くへ行ってしまったので、ゾロリは肩を落とし、目線を戻す。

 ―――あれ?

 と、違和感を覚えて、再び同じ経路を目で辿った。
 そして見つけた。大柄の駅員に囲まれている小さな体。ラフなシャツに緑色の帽子。
 幾度も顔をつき合わせて、しかもなんだかいいように利用されている―――
「ペペロっ!?」
大きな長靴が特徴的な、小柄な青年。
 師匠の驚きの声に、弟子達ははっとなってあたりを見回す。
「ああぁぁ〜! ペペロだよっ」
「この前お年玉くれたペペロだぁ。旨かっただぁー」
ゾロリの中ではいけ好かないヤツの分類されていた彼は、どうやらイノシシたちの中では美味しい料理をご馳走してくれた粋なヤツとして記憶に残っていたらしい。
 ベンチから素早く降りると、ゾロリの制止も聞かずにぱたぱたと矢のように走り出した。
 向かってくる双子を視界の端に見つけた青年は、ああ、と呟きながら向き直る。
『ペペロっ』
「久しぶりだな、元気そうでなによりだ」
 イシシとノシシがいつもの通り明るい声で挨拶すると、ペペロは笑っていた。
「魚がっ、すっごく、すっごく、すごっかただー」
「お肉もこんなんだっだよ!」
 突然、何の前ぶりもなく。
 子供達は高いテンションで、お年玉のメニューがいかに美味しくて頬っぺたが落ちそうだったかを手振り身振り交えて語り始めた。幼子が一生懸命に話す、その微笑ましい様子に自然ペペロの周りにいた人々の顔に笑みが浮かぶ。
 あれは自分ではないのだが、と思いつつもペペロは二人の話にじっくりと耳を傾ける。この言葉を手紙にしたためて後で送っておこう、と考えながら。風の噂によると、例の大手俳優は、相変わらず仕事は忙しいものの最近は俳優仲間と一緒に子供の遊び倶楽部なるものを結成しているらしい。懐古主義は浸り過ぎれば毒だが、心には必要な安らぎだとペペロは思っている。
 遅れてやってきたキツネは、気のない視線を向けると腕を組んで口を開いた。
「よぉ」
どうやらこちらは、正月で利用されたことがいまだに面白くないようだ。
「やあゾロリ。久しぶりじゃないか」
と、ペペロはその敵意ある視線をさらりと流して言い返す。
 車掌たちに一旦向き直り、軽く頷いた。
「シャッフルード駅から乗ったら車掌たちとつい仲良くなってしまってね、お礼にここまで送ってもらったんだ。この駅の雰囲気が気に入って降りてみたんだけど。
 こちらは俺の古い知り合い。
 ゾロリと、その子分兼弟子のイシシとノシシ。顔を覚えておくと損のない、いつかイタズラの王者になってお姫様とお城を手に入れる男なんだぜ」
彼がそう言うと、冗談だと思った駅員達は一瞬で笑い出す。場の空気が和んだ。本当なんだから、とペペロは目は笑って言うので、益々真実性が失せる。
 ゾロリもその紹介に少し気をよくした。
「本当になんと言って良いのやら……」
「お礼はもう止してくださいよ。
 ここまで送ってくれただけで本当に有難い。
 ―――じゃあ、そろそろ。連れ合いも出来たんでね」
「そうですね。
 積もる話もおありでしょうから……。
 今度こちらによるときはどうか是非顔を出してください」
「ありがとう」
手を振る車掌達を置いて、ペペロはゾロリたちを引き連れて広場の人込みが激しい方へと向かった。姿が見えている間中ずっと手をふっているからだ。
 ゾロリは無言でその小さな背中を見る。が、とうとう好奇心に負けた。
「……また人助けかよ?」
「まあ、結果的にはな。
 電車の中で護送中の殺人犯が逃げ出して、それを助けに来た殺人犯側の奴らと激戦になったんだ。で、たまたま乗客として乗っていたこの俺が、それを鎮圧平定して人質代わりの車掌たちを全て助け出したってわけ」
『ええっ!?』
ペペロがさらりと語る話があまりにも突飛で、イシシとノシシが同時に飛び跳ねる。
「そら凄いだぁ!」
「ペペロ強いだよっ! 知らなかっただ〜」
疑うということを知らない子供達の、予想通りの反応だ。素直な尊敬の眼差しに、にやり、と猫は口を引き攣らせた。
「―――なんてね。
 いや、たんに列車の中で急患が出たから、その応急処置をしただけだよ。旅人に薬は必需品だ。
 そうしたら大変感謝されちまって……なんだかこっ恥ずかしいところをみられたな。
 しかし、助かったぜ。ちょっと逃げられない状態だったからよ。ところでお前達はこれから何処に行くつもりなんだ?」
ぷんすかと怒り出すイノシシたちを持っていた飴玉で軽くあやしながら、ペペロはゾロリに顔を向ける。
 キツネの眉間に、数本皺が寄っている。
 実は、この旅人の身からは僅かながら硝煙の匂いがする。
 ゾロリには真の理由を説明しつつ、イシシとノシシにはわからないように隠してしまう。相変わらず切れるヤツだと思いながらゾロリは口を開いた。
「ちょっと知り合いと待ち合わせていてな。
 まぁー、なんつーか、ここで迎えが来ることになってんだが」
といってゾロリは周囲を見渡した。
 ペペロに着いて思わず待ち合わせ場所から離れてしまったが、この位置ならさほど問題はない。駅前の広場の先のロータリーが見えれば良いのだ。そこにはまだ目当ての車はきていなかった。
「ガオンだよ!」
「ガオンは発明が出来る気障気障なかっこつけのトモダチの少ない博士だよ!」
イノシシたちは腰に手を当てて自慢気に説明を加える。
 おや、とペペロは小さく呟いた。
「まさか、この公国のガオン王子かい?」




MAIN  ・ BACK  ・ NEXT