[ [ [  We meet agein,so... 1  ] ] ]

 
 奇跡なんて、愚者の信じる言葉だ。
 世の理は全て必然。偶然も奇跡も、全ては必然の編み出す産物。理由は勿論存在する。

 だって、彼は薬問屋の一人息子で。
 だって、自分は魔法の国の情報局の上級のエージェントで。

 再会するのには、条件が揃っていた。十二分の理由があった。
 だから、再び逢えるのは、必然。
 足元が崩れ落ちるような感覚も、体が壊れてしまいそうな胸の高まりも、外界の音が全て聞こえなくなってしまったのも全て錯覚だ。間違いだ。誤りだ。脳の引き起こす不可思議で無意味な現象の塊なのだ。必然に対して、どうして驚く必要があろう? 東から太陽が昇って西に沈むのに、胸が高まるなんてはずはない。
 そんな錯覚を現実と思い込むのは愚かな者がすることだ。

 そう、だから、つまり。

 私は、これ以上救いようのないくらい、愚か者なのだということだ。



 *****


 「……ダポン……」
掠れた声が知らずうちに漏れていた。
 十年以上も昔の記憶の人物が、記憶どおりの顔をして、同じ空間に立っている。
 丸い顔に折れた耳、柔らかなこげ茶色の毛、悪意のなさそうな―――それでいて非常に腹黒い―――穏やかな笑みを浮かべたその顔。面倒な相手に愛想笑いを浮かべて話しているとき、耳が小刻みに動く癖も変わっていない。背は伸びたようだったが、自分の方がずっと大きくなっていたので、どれだけ伸びたのかよくわからなかった。小さくてちょこまかと動き、ともすれば視界から隠れてしまいそうになるから、昔はずっと見えるように傍に置いておいた。
 ……そうですか、成る程……わかりました……ええ―――彼独特の落ち着いた声が、十メートル以上も離れているのに『聞こえた』。胸の奥底を溶かす温もりのあるその音。余りにも懐かしくて足が竦む。
 夢にまで見たその声を、再び、聞くことが出来るなんて。
 諦めないと幼心に決めた決心が、こうもあっさり現実になるなんて。
 揺れた水面から零れ落ちる冷たいワインに、ロジャーは現実に引き戻された。
「どうした、ロジャー」
「いや……なんでもない」
つい数秒前まで世相について熱心な議論を交わしていた同僚は、不思議そうな顔をして小首を傾げる。だが、彼はもっと驚くことになる。話の途中だというのにロジャーはふらふらと人の群れの方へ足を向けたのだ。たった数分前、人ごみが嫌だといってこちらに非難して来たのこの男が。
 情報局きってのエリート魔法使いは、ワイングラスを近くのテーブルへ置くと、人の間を縫って、足早に人だかりの方へ向かった。ダポンたちは丁度ホールの中央にいて、いくつもの人垣を超えなければならなかった。せかす心を抑えてただ足を動かす。




MAIN  ・ BACK  ・ NEXT