[ [ [ ゾロリ先生の誕生日? ] ] ]

朝食が終わって荷物を取りに部屋に戻ってくると、変な箱が置いてあった。
今までは絶対に無かったと確信できる。なぜならそれは、リビングの中央に聳え立つ華美で巨大な彫刻があった場所に置いてあったからだ。
「何だよ……これ?」
あの大きくていかつい彫刻はどこに消えたのだろう? あれ、移動できる重さだったのか。いいや、それ以前にこれはなんだ。というか誰がこんなことをしたんだ?
ゾロリは右手を顎に当てて小首をかしげる。そうしながら、つらつらと昨日から起こったありえない幸運の数々を思い出した。
通常、彼らは野宿でその日の宿を済ませる。お金が無いからだ。普通の宿は勿論、ましてやホテルなど全く無縁である。しかし、今ゾロリたちは、このリゾート観光地で一番豪華なホテルの値段を聞けば耳を疑いたくなるようなオゾマシイ価格の最高級の部屋に泊まっていた。
この地に足を踏み入れた時に『バサラ タウン 10000人目の観光客』に当たり、この超高級ホテルの宿泊券を手に入れたからだ。
王宮のような宿を独り占めできて、双子のイノシシ達は大興奮だった。短距離競争が出来るような広い部屋を一人一つずつ宛がわれ(それでも結局イシシとノシシは同じ部屋に寝たようだったが)、美味しい食事もたっぷり食べて、プールのような金で塗装された風呂に入り、夢のような体験が出来た。いつかお城を建てたら、あいつらが喜ぶような部屋を沢山つくってやろう、とゾロリは寛ぎながら将来の夢を膨らませた。
……待てよ。
と、唐突に、思考が止まる。
オ・ウ・キ・ュ・ウのような宿。
…………その言葉に何かが引っかかる。
罠がないか確かめてから、リボンのかかった小箱を持ち上げてみた。白い四角い箱に、真っ赤なリボン。これぞ正統派プレゼント、というようなそんな箱だ。この気障でちょっと恥ずかしい箱が良く似合う奴には、なんとなく心当たりがある。
ゾロリの中で、漸く全ての謎が一本で繋がった。
にやりと口元を引き攣らせて、扉の方にチロリンと視線を投げかける。悪いことを考えたときに見せる、悪戯っ子の顔が浮かんでいた。
「……で? 何がしたかったんだよ? ガオン」
開け放された扉の奥。
そこには、ゾロリの予想通り、金髪の髪をなびかせた狼が少しだけ嬉しそうな顔をして立っていたのである。
「気づくのが遅いぞ」
ガオンは言いながらずかずかと部屋に入ってくる。
「回りくどすぎんだよ」
「ん? そうか?
サプライズプレゼントが乙女を喜ばせる最高の手段だと最近国勢調査では出たんだがな」
「……乙女って…………。
てかそれ以前にそんな程度に国家規模のアンケート使うなっての」
ゾロリが低い声でつっこみを入れるが、もはや妄想と記憶の世界の住人となっているガオンは少しも聞いていない。顎に手を置きながら、むふふふと怪しげな笑いを浮かべている。その変態っぽい顔に、ゾロリの顔は僅かに引き攣った。
「それにしても昨日のお前たち、ずいぶん可愛かったぞ。
まさか風呂場で尻文字クイズ大会を始めて逆上せてぶっ倒れるなんて俺も考えもしなかった。まああんなことを普段からしているなら、やっぱり旅はいかんな。お前の綺麗な裸体が他の男の視線に穢されるなんて考えただけでも身が凍る。
いやでも、あの尻尾と尻の動きは……くくく…………ちゃんと映像は残しておいたからな。安心しろ」
「見るなっっ! てか、撮るなっ! このど変態がっ!」
「そう吼えるな。褒めているんだ」
ガオンはにこやかな笑みをのせてさらりと言い返した。
だから褒められても嬉しくないんだっつーの。
と、ゾロリは思ったが口にはしない。どうにもこの王子は一般常識もなければ一般理性もないらしい、ということ最近学習した。
放っておくと延々と自分の妄想世界に入って息を荒くするなんて、変態だと思う。
しかも変態と言われて微笑むなんて、やっぱりオカシイと思う。
「ああ。そうそう、言い忘れてた」
再び己の妄想に入り浸っていたガオンは、ゾロリの言葉に現実に引き戻された。
いつの間にか、彼はプレゼントの箱を抱えて窓側のほうに立っている。しかも今現在なおも、じりじりとさらに窓へと近寄っていた。既に旅支度は出来ている。窓の外には、ゾロリを待つ双子のイノシシが追いかけっこをしてじゃれあっている。その賑やかな声が部屋まで聞こえてきていた。
―――全ての情報を理解して、ガオンが気づいたときにはもう遅い。
「俺様の誕生日。来月の4日だったりするんだなー。
前教えたのは、ウ・ソ、だから」
「何ぃぃぃぃぃぃ!?」
「あっはっはっはっは。
まぁ、そーゆーことだからこのプレゼントは貰っておくぜ! じゃなー」
ぴょーんと窓から飛び降りて逃げてしまう恋人。
ガオンは慌てて窓に寄ったが、もはやゾロリたちは野原の遠くへ駆け出していた。三人は仲の良い声を上げて旅をはじめている。今から追ってもどうせ逃げられるだろう、あの生意気なキツネが見た目以上に天才なのをガオンは良く知っている。
悔しそうな歯軋りの音が、空しく部屋の中に響いた。楽しい一晩(=思わぬ誕生日プレゼントに喜んで、その喜びを表現するための愛情たっぷりのご奉仕をする恋人を翻弄して楽しむ熱い夜)のためにせっかくこの高級ホテルを買い取ったというのにっ!
ガオンは心に誓った、もう騙されるものか、と。
しかし、彼は律儀にも次の月の四日同じようなサプライズプレゼントをして、同じように騙されたのである。
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