[ [ [ 星に願いを 1 ] ] ]
世界一有名で美形で評判に高いガオン王子が、長い長い遠征に出発したのは青葉のまぶしい五月のことである。
内容は王子を中心に組んだ外交団が遠くの友好国を周遊するという単なる外交なのだが、遠征という物々しい名前が相応しいほどに重要な国務の一つだ。遠交近攻。遠い国ほど友好関係の維持が大切なことはない。しかも今年は国際的な不況やらある『地域』の治安悪化など国際問題が噴出し、普段よりも三倍以上の日数をかけた長期な遠征を組んだのだ。
どこの国でも大変歓迎はされたが、一方で、たくさんの問題を持ち込まれた。
かなり時間をとったおかけげ遠征の最中でいくつかの重要案件を片付けることが出来たが、自国に戻って片付けなければならない問題が山積みだ。それでも、今回はなかなかに成功だといえるだろう。
しかし、太陽は昇れば必ず沈む様に、忙しい日々にも終わりが来る。
ヒグラシが夏の終わりを告げる頃、とうとうその日はやってきた。
最終日、午後の会議が終わって、全ての予定が終わった。
ガオンと外交官たちはホテルに戻ってくると、その最上階でささやかながらも賑やかな晩餐を迎えた。
今日で、もう、一団がこうして顔をあわせることもなくなる。毎日案件を話し合い、問題を対処し、同じ食事をしているうちに、いつの頃からか、戦友のような不思議な連帯感が芽生えていた。帰れるという嬉しさよりも、もう別れる時間だという思いの方が強かった。晩餐には酒が入り、話しが弾んだ。
此処数ヶ月、色々な事件があった。外交交渉も全てが上手くいったわけではないし、各国の相違もわかった。次の外交へつなげるためにしなければならないことはたくさんある。喩えようのない懐かしさが込み上げて、酒が進んだ。
かなり酔っ払った王子は、部下達の話を聞きながら軽く目を瞑ると、様々な思い出がまるで白黒映画のように上映された。ついさっきまで会っていた異国の王、一週間前に食事を一緒にした親戚の王女、憎たらしい相手の国の外交官、小火騒動、優しすぎる国の大臣、そして、エンドローディングに現れたのは―――最も愛しき者の顔。
両手を広げ、照れ隠しの苦笑いを浮べて、黄色の耳をぴくぴくさせながら、彼は言った。
「ここで、待っていてやるぜ。早く帰って来い」
その顔を思い出して、ガオンははっと目を見開く。
途端、一種の頭痛と眩暈が襲ってきた。
どうやら知らぬ間に相当飲んでしまったらしい。
ガオンはまだ盛り上っている部下達に謝って先に部屋に戻ってきた。
―――扉を閉めれば、もう、何もかもが億劫だった。
体を締め付けていた服を床に脱ぎ捨てて、ゆらゆらと危うい足取りで進む。体が泥の様だ。重い。暑い。苦しい。
寝台の上に倒れこむと、奥底から沸き起こってきた疲労に全身が囚われ、もう動けそうにもなかった。
裸のまま寝るなんて、子供の頃だってしたことがない。ガオンは僅かに頬を引き攣らせて自嘲する。
酒で熟れた体を抱きしめて、丸くなった。
寒さを覚えた。
心が寂しいと泣き始めたのを自覚して、目を瞑る。
嗚呼。せめて、夢で、彼の夢がみることができますように。
低く囁いて深い眠りの世界へと転げ落ちた。
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