[ [ [  星に願いを 7  ] ] ]


 目が覚めると、ガオンの横には小さな背中が横たわっていた。
 お日様の香りのする黄色の毛。
 反対側を向いているその塊を優しく抱きしめて、背中を頬でゆっくりと摩る。

「……昨日は、本当に良かったよ。
 まさか、口でしてくれるとは……思わなかった。
 君と子供が出来て、凄く嬉しかったんだ。ありがとう」

 嗚呼、とガオンは、ようやく、積もりに積もっていた想いを伝えることが出来た嬉しさに浸っていた。
 昨日は色々変な考えが錯綜して、素直になれなかった。
 その所為でゾロリを傷つけてしまった。
 だが―――だが、それを癒す機会ももらえた。
 二人の愛はもっと深まったに違いない、とガオンの妄想は果てしなく広がる。
 ―――ゾロリが振り返るまでは。

「ほほ〜う。
 なるほど、つまり、お前は。
 俺様が禁欲で身悶えているときに、女を孕ませてそいつに口でして貰ってとってもハッピーだった、ということか?」

 首を回したキツネの形相にガオンは言葉を失う。
 前に回した手には、昨日あったはずの脂肪の膨らみが何処を探しても見つからない。





 あれ?





 目が点になるガオンの頬をゾロリは容赦なくグーで殴りつけた。
 ……痛みで目が覚めた。
 かみ合わない記憶。
 かみ合わない発言。
 かみ合わない現実。
 いろいろな情報が脳内を縦横無断に駆け巡る。十秒という長い時間をかけて、明晰な頭脳は一つの答えをはじき出した。まあ、おそらく明晰な頭脳でなかったとしても、同じ結論を出しただろうが。



 夢っ!



 あまりにも生々しい夢だった。感触がまだ残っているような錯覚すらする。
 ゆえに、今なお信じられないという思いのほうが強い。ゾロリの悪戯なんじゃないかとちょっと考えている。
 ―――いや、正確には。
 彼の悪戯だったら良いなぁと思っているのだ。
 ゾロリについ一分前己が言った発言は、思い出せば思い出すほど、血の気ががっつり引く。普段アレな恋人が、この事態を説明したとしても、『そっかー。夢ならしゃーねーなー』と言ってくれるとは……まず思えない。
「い、いや、ち、違うんだこれはっ」
ゾロリの視線があまりにも痛くて、殴られたことに怒るよりも、咄嗟に誤解を解くほうを選んでしまう。
 その発言が益々ゾロリの誤解を深めた。
「あーなるほどー。
 完璧主義のおうじさまにはとんだ手違いでしたねーたいへんだぁー」
「だからぁぁぁぁーっ」
「ああ本当、迎えに来てやってよかったぜー。
 何をしているかわかんねぇもんな。まったく」
寝台から降りると、パンパンとゾロリは服を払った。
 シンシア女王がどこか元気のないゾロリに『最後の帰りくらいならば会ってきてもいいんじゃないかしら』と送り出してくれたのは、一昨日のこと。そうお許しがも出ると、居ても立ってもいられなくなって、直ぐにゾロリは出かけた。
 ガオンの居る国まで、一番早い飛行機を乗り継いでも一日はかかる。早朝の一番に到着した飛行機から真っ直ぐにホテルに向かうと、まだ六時も過ぎていなくて、ゾロリが関係者だと告げて部屋の鍵を借りた。ガオンは当然眠っていて、無理に起こしてやろうかとも思ったのだがこんなにも熟睡している彼を見るのは珍しくてついつい眺めていた。そして、そのうちに、あまりに布団が気持ち良くて横で眠ってしまったのだ。
 ガオンは起き上がって直ぐにその後を追うが、ゾロリの冷たい視線に、ある一定の距離以上へ踏みこむことができない。

「…………謝って許してもらえると思うなよ、ガオン」

ぼそりと言い捨てて、強く扉を閉めた。ばたんっと壊れるのではないかと心配させるような音だ。
 その荒々しい動作に為す術もなく立ち尽くす裸の王子。
 彼が誤解を解くために、帰国は一週間延びたのである。



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