[ [ [  あらしのよるにパロ 2  ] ] ]


※冒頭部分だけ書いてみた。

 それは、あらしの夜のこと。
 雷が大嫌いなオオカミの王子様と、同じく、雷がとても怖い孤独なキツネが、丘を歩いていると急な雨に見舞われたのでした。
 見上げれば、夜空の闇色に混じる濁った灰色。いつのまにか、空は暗雲が多いつくしておりました。ごろごろと機嫌良さそうに喉を鳴らして、吼えるのを今か今かと楽しげに待っている声が聞こえます。雷が現れるまで、もう時間がありません。二人は直ぐに空の不穏な様子を理解して、慌てて丘にある一つの小屋へ転がるように駆け込みました。
 オオカミは扉を開けると、直ぐに右の端にあるベットの下に潜り込みました。開いたままの扉から入ってきたキツネは、扉の左の端にある机の下に丸まりました。
 小屋の中は灯かりもなく真っ暗で、しかも雨粒の音が煩すぎて、他に人がいることに気がつかなかったのでした。
 二人は、小さく丸くなって震えておりました。
 ごろごろ……ごろごろ……
 空は、間断的に喉を鳴らします。時折、ぴかりと窓と扉から眩しい光。
 ああ、もう来たか、とキツネは絶望的に思いながら、耳をしっかりと押さえました。
 空の第一声が、遠くから聞こえてきました。
 オオカミはきつく目を瞑りました。それを切っ掛けに、雷は至るところで唸りを上げて暴れ始め、ここかしこからあの独特な音が響いてきました。二人はこの恐怖が過ぎ去るのを只管じっとしていることで耐えようとしていたのでした。

 ドガラガッシャン―――

 しかし、丘の直ぐ傍に雷の一つが下りてきて。
 小屋は一瞬白光に包まれ。
 地を切り裂く咆哮が塞いでいる耳の奥まで伝わってきました。
「うあぁっ!」
「ぎゃぁっ!」
おぞましい轟きに、キツネもオオカミも悲鳴をあげました。
 ―――その時。
 互いに、ようやく、この小屋の中に、誰かがいることに気づいたのです。
 オオカミは動揺しました。
 親族、家臣、婚約者―――多数の敵に囲まれながら生まれ育ってきた彼には、常に完璧が求められ、己の秘密が誰かにばれてしまうのは許されないことなのです。
 そして一方、キツネも愕然としました。
 溢れる才能を有するが故に人に頼る術を知らない彼は、こんな惨めな姿を見られるのはあまりに恥ずかしかったのです。
 しかし。 
 
 ドガラガッシャぁぁぁン―――
 
「ひゃぁぁっ!」
「どあぁぁっ!」
そんな驚きよりも何よりも、今は雷の方が大問題です。
 一瞬は茫然としたものの、すぐに耳に手を当てて、元の体勢に戻りました。
 キツネは机の下へ、オオカミは寝台の中へ。
 しかし彼らは先ほどと同じように身を震わせながらも、さっきまでとは違う思いを抱いていたのでした。

 自分以外にも、自分と同じように雷が怖い人はいるものだ。

 なんとなく、今まで感じたことのない感情が胸の奥から込み上げてきました。
 雷がひっきりなしに落ちてくるようになった頃、とうとう堪えきれなくなったゾロリは、衝動に突き動かされるままに口を開きます。
「俺様、雷が、苦手なんだ」
言って。
 しかし、直ぐに、後悔が襲ってきました。
 どうしようもないほどの羞恥心を感じて、顔は真っ赤です。
 彼は、幼い頃から素晴らしい才能と実力に恵まれていました。そして己の力だけでどんな困難も乗り越え、彼は自分の能力に自信を持っていました。しかしながら、彼が周囲を一切気にせずに自分のためだけに発明をして暮らしているうちに、気づけば、仲間の中から浮いた存在に。疎外感を覚える頃には、己は誰よりも優れているというとてもとても高いプライドの壁が出来上がっておりました。
 笑われることが怖くなりました。
 彼はいつも誰にでも喧嘩をしかけ、相手を負かし、優れていることを見せ付けるのに躍起になっていました。
 だから、こんな風に誰かに自分から語りかけたのは、ひどく久しぶり。
 笑われると不安に駆られるキツネに、暗闇の中から返事が直ぐに戻ってきました。
「…私もだ。
 どうにも好きになれん」
落ち着きを払った低い声でした。
 予想外の返答に、キツネはぱちくりと目を瞬きました。笑われず、こんな風に肯定してくれるとは。
 気になって、顔を上げて首を回します。
 暗闇の中、ベットの下に何かが蠢いている影。
 キツネの顔が自然に綻び、一方オオカミも、自分でも不思議なくらい穏やかな気持ちになっていました。
 その時また近くに雷が落ちて、二人は飛び上がって丸くなりました。
 こうして二人は、雷が鳴らない間だけ、訥々と言葉を交わし始めました。
 あらしが通り過ぎるまで、闇の中で話し合った二人は、もうすっかり気を許していました。笑い声すらも聞こえました。長い時間が、とても短いものに感じました。
 気がつけば、空はすっかり落ち着いて、小雨に変わっていました。
「おや、止んだようだな」
「そうだな。よかったぜ」
一瞬。二人は口を閉じました。小屋全体が静まり返って、さぁさぁと雨の音だけが聞こえます。

「……もし、よければ」

と、キツネは、勇気を出しました。このまま別れてしまうのが、どうしても嫌だったのです。また、もう一度、話したい。
 喉に詰まるものを必死で飲み下しながら、言葉をつなげます。
「明日でも、丘の向こうで、飯を食わないか?
 ……その、綺麗な景色があるところを知っているんだ」
オオカミは涙が出るほどその言葉が嬉しくて、弾んだ声で返しました。
 彼もまた、このまま別れてしまうのが辛くてしょうがなかったのです。
「それは、是非。じゃあ、この丘で会うのはどうだろう?」
勿論キツネに異論はありません。彼らは合言葉を決めると、また会える喜びを胸に抱いてそれぞれの帰路を駆けて行きました。



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