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 ガオンとゾロリが協力して作った『オレの弟子が一番に決まっているだろ決定戦スタジアム』は、一言で言えば、完璧だった。
 館の傍にある一a程の草地を、半球の硝子のドームが完全にすっぽりと覆い隠す。たとえ中距離ミサイルがその硝子に当たっても、うまく力を分散させる構造になっており、破壊することはまず不可能だ。メカイシシとメカノシシが遠慮なく力を発揮できるようにとガオンが一晩で編み出した設計図をもとに、ゾロリが造ったメカで十時までの一時間で作り上げてしまった。硝子も普通のそれではなく、特別な薬を塗って焼きを入れてモース硬度10の数値をたたき出す。
 アーサーは監視役だった。
 二人は今まで彼のことを間抜けでとっぽい王子以上には考えていなかったが、その評価は完全に否定せざるを得なかった。どうやら自分達以上に修羅場を潜ってきた男であることは間違いないようだ。
 三人の弟子達は、各自室にこもって戦闘の準備をしている。
 観客席の最終点検をしていたゾロリは、監視が終ったのだろう、腰掛けるアーサーの姿を見つけて近寄ってきた。
「どうしたんだい? 何か?」
「まあな。
 ペペロ、随分各地で噂になっているじゃないか。レバンナ王国に本当に戻ってくるのかよ」
「来るよ」
やおらきっぱり、黒ヒョウは言い切った。
 その目は迷いはない。
 ゾロリが見るに、どう見てもペペロは帰るつもりはないようなのだが。そしてこの王子はそれに気がつかないほど疎い人格ではないことは、昨日の態度からよくわかった。
 ゾロリの困惑を察したアーサーは、苦笑いを浮べた。
「……あの子は騎士なんだ。
 どこかの国に仕えたいんだ。
 忠誠を誓うべき相手を探しているんだ。

 ―――でも誰が、あんな騎士を雇う?

 体格は騎士には不向きで。
 そして、何より、頭が良すぎる。
 自分より切れる者を手元において置くことができるのは、それなりの慈悲と寛容さが必要になる。でも寛容な王は、彼を騎士にはしたがらないのさ」
 だから幾らでも旅に出るがいい。
 そして絶望を抱えて戻って来い。
 ―――そんな、アーサーの声が聞こえるような気がした。
 むかつくものを感じて、ゾロリは目を細める。イタズラの王者は本気で怒っていた。ペペロは仲間ではないのだけれども、怒る理由なんてないのだけれども―――何故か、あの猫の青年を想うとどうしようもなく腹が立つ。
「お前なら、あいつの忠誠を誓うべき相手になり得ると?」
黒ヒョウはせせら笑う。
 そして、何も答えないで立ち上がった。
「ゾロリ、時間だ。
 もう選手たちが入ってきているよ」
ガオン特製審判ロボが忙しなくドーム全体を回っている。アーサーの言葉どおり、各弟子たちは各々決められたゲートから入ってきていた。ガオンも遠くからやってくる。滅多に見ない正装姿だ。
 観客席はドームの内部に設置されていた。三人の椅子は特別見やすいように革張りで、しかもジュースは椅子の手すりにあるボタンを押すだけで自動的に出てくる仕掛けになっている。
 所詮は弟子達の攻撃だと高を括って、防御壁は張っていない。ペペロはアーサーたちが寛ぐ様子を見て薄く笑う。

 そうだ、それでいい。

 ペペロが昨夜四人に告げた作戦は、たった一つ。
「合図をしたときに、全身全霊で俺を攻撃しに来るんだ」
四匹のイノシシはわからないと首を傾げると、彼は懐から一枚の鏡を取り出した。
「……ガオンとゾロリならわかるだろう。
 これはレバンナ王国の秘宝。
 何もかも跳ね返す、世界の最強の盾、聖典ブックラコイータと同じように伝説的に語られている魔法の鏡だ。
 これを使うと、お前達の一番の攻撃が跳ね返ってくる。そうしたら、お前達が危険になるだろう?
 俺たちの危機に誰が真っ先に駆けつけるか。

 弟子を一番想っている先生は誰か―――

 それを、決めてやろうぜ」
レバンナ王国の魔法の鏡は有名な一品で、発明好きの二人が知らないはずはない。しかもその鏡は数年前に盗られてしまったのも有名な話だ。
 ペペロは服の中に隠してある鏡の位置を確認して、一日で出来上がった闘技場を見渡した。十分な広さがある。
 メカイシシとメカノシシの攻撃は、おそらく空中戦。ミサイルの精度は普通以上―――当たるものだと考えて動けば、大して問題はない。ミサイルはあの中に搭載できるのは量や種類が限られている。そしてガオン博士の性格からだいたいが予想つく。イシシとノシシはおなら攻撃とブックラコイータか。だとしたら、接近戦は危険だ。
 敵となるイノシシたちの位置を、再び『見た』。
 20メートルの正三角形のように点在する。
 彼らはスタートの合図があるまで動く様子はない。
 いやきっと、合図があっても動かない。合図と同時に攻撃に転じるつもりだ。

 これで、必要な情報は揃った。

 帽子のつばをもって、きゅっと深く被る。
 審判メカが三分前だと告げる。
 緊迫感漂う空気が辺りを包んだ。緊張したノシシがおならをしているのが、微笑ましい。

 ビィィィ―――っ!

 劈くような音がドームを揺るがす。その音は一瞬意識が吹っ飛ぶほどの大音量。だがそれは、メカには関係ないだろう。案の定、メカイシシとメカノシシは直ぐに動き出したが、イシシとノシシは目を回してしまっている。
「ガオンっ!」
ゾロリは思わず胸倉を掴みそうになったが、それを軽く避けてオオカミは薄く笑う。
「何事にも対応できる力こそ、弟子に必要なんじゃないのか?」
「大丈夫だよ、ゾロリ。
 見てみろ」
目を回していたが、イシシはその手にあるブックラコイータを開いていた。攻撃が乱発されて、危うくてメカたちは飛ぶことが出来ない。
「よくやったぜ!」
「お前、自分の武器を渡したなっ」
「はぁん? あんなの俺様の武器じゃねーもん。俺様の武器はこの天才っぷりだからなぁ」
「意味がわからんぞそれはっ!」
ガオンとゾロリが言い合っている間にも、戦場は刻々と変化していく。
 イシシとノシシは起き上がって、積年の恨みとばかりにメカイシシメカノシシを攻撃しようとしているが、見事としか言いようのないくらい外している。むしろ気絶していたときの方が命中率は高かった。
 メカイシシは双子のイノシシに向かい、一方メカノシシはペペロを追い詰めた。しかし、猫の姿は、捉えたと思うと粉塵で直ぐに消えてしまう。
 メカノシシは判断した。
 このまま空から追いかけても無駄だ。
 ―――となると。

「……ああ、やっぱり追撃型のミサイルね」

アーサーは肘をついて手を顔に置くという態度で、面白くなさそうに呟く。
 単純で確実。ガオンならば最も好むタイプの、誠に面白味のない攻撃方法だ。
 その意見はゾロリも賛成らしく、同じような態度で「ガオンっぽくてツマンネーな」と言っている。だがガオンはにやついた表情で二人を無視した。確実に勝てるなら、それ以上のことはない。
 メカノシシはペペロに照準を合わせて五発のミサイルを撃ち放つ。
 猫は軽やかな動作で迷いなく走った。
 ―――イシシとノシシがメカイシシと小競り合いをしている戦場へ。
 カオスな状態と化しているそこに五発のミサイルを引き連れた猫が転がり込む。ミサイルはブックラコイータの攻撃に当たって爆発し、誘発を引き起こす。眩しすぎる光。粉塵が上がって、視界が悪くなった。
 ペペロは大きく帽子を上空へ投げる。
 観客席からは分からないが、闘技場の中に火薬に混じって甘い香りが漂った。
 それが、合図だ。




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