[ [ [  the worst pharmacist 1  ] ] ]

 
 「お前が販売に加わってから、本当に、漸く経営が安定してきたよ」
目元の皺を深めながら、老翁は嬉しそうにそういった。帰り道で突然父親がそんなことを言ったから、思わず反応に困った。口を顰めてどう返答しようか迷っている息子に、彼はなおもありがとうと言い募ってきた。

 嗚呼、なんで、そんな言葉を、突然に、言えるのだろう―――この人は。

 ダポン家は薬剤師として名の知れた一家である。だが、高級な魔法薬しか扱わず、薬の値段が他の薬局よりもかなり高いために、ダポン薬局の経営はいつも瀕死の状態であった。お得意様が一つ消えれば、そのまま倒産しかねないギリギリ感。新規の御客はなかなか増えないのに、すぐに契約を打ち切りたいとの電話は毎週どこかしら掛かってくる。給料日になんとか社員の給与を払えたときにほっと息を吐く父親の姿を、何度もダポンは目にしていた。
 初めて経営の実態を知ったときには、負債の多さと入金の少なさに頭を抱えたものだ。薄利多売の方が魔法薬は儲かるというのに、父親は良い技術でしか作れない薬にあくまでもこだわっていた。だから、月の半分は絶対に魔法薬の研究のために旅へ出させてくれていたのだ。それには感謝をしているがあの経営状態の悪さは何とかしないとどうしようもない、とダポンはその日色々なことを決心して色々な楽しみを捨てた。
 車の中に差し込む夕日。
 助手席の父は、眠そうに瞬いている。がたがたと揺れる道だが、ここは余計に眠気を誘うのだ。毎月通って一番危険なルートだと思っている。
「……父さん、最後の一軒は私が回りますので、どうぞお休み下さい。
 今日は五件も回ったんです、張り切り過ぎですよ」
「昔はもっと回れたんだがなぁ」
「あっはっは。ご自身を幾つだと思っていらっしゃるんです。
 それに、最後はナーゴさんの病院ですから大丈夫ですよ」
「本当は久しぶりにナーゴ先生ともお話をしたかったのだがなぁ……。
 ……うむ、すまぬが、今日はお前に頼らせてもらおう」
ありがとうな、と、いつものように軽く言ってから目を閉じる。低くて穏やかな声音、笑顔皺の刻まれた顔、折れた茶色の耳。ミラーに写ったその顔を見ると、本当に彼と血族なのか不安になってくるくらいに似ていないと思う。父と子よりもむしろ祖父と孫程も年の差があるのだ。

 経営が安定しただって?
 ―――全く、当然じゃないか。
 品質だけで売れるなんて、甘くて時代錯誤の夢想なんか見てない。
 貴方は、本当に、最低の経営者なんですから。




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