[ [ [  Storyteller  1  ] ] ]


 俺が作り上げるのは、幼き君のためだけの物語。
 君に罪はない。
 罪があるのは悪い人だけ。
 悪い人は傲慢で身勝手、いくらでも他人を利用する。
 利用された君は可哀想で哀れな主人公。
 でも、安心して。悪は必ず善に滅ぼされる。
 物語とはそういうもの。辛くても最後は必ずハッピーエンド。
 君は悪くない。
 そう、だから、どうか、お願いだから。
 ――、―――――。


 *****


 飛行機にヘリコプターの残骸が勢いよくぶつかって、ゾロリたち一行は魔法の森を封印した指名手配犯でウスターソースを街に飛ばしてきたタヌキを捕まえることが出来た。だが、その勢いが良すぎたゆえに、ぶつかった飛行機は墜落し、四人は谷底へまっ逆さまに落ちてしまった。
 回る視界でダポンは見た。
 虚空に浮かぶ月。
 あんなにも皓皓として、あんなにも冴やかなのに、なんとまあ、まだ三日月ではないか。
 いったい、あれが円やかになれば、どんなに明るいのだろう。
 そして意識は途切れ、次に起きたときは、谷底に横たわっていた。
「うっぎゃぁ―――っ!」
 服に飛び火した火の熱さで目が覚めて、勢いよく燃え盛る飛行機を何週も駆け巡る。火が消えて一息ついてから頭を巡らせて確認すると、思ったよりも深い谷ではないことがわかった。
 おそらく、墜落といっても五六メートルの高さくらいから落ちたのだろう。自分が無事なのだから、追ってきた三人も間違いなく無事だ。おそらくこの側に落ちているだろうとあたりをつけて首を振ると、果たして追っ手は近くにいた。
 黒いマントに派手な全身タイツを着込んだ狐は倒れており、遠目でもまだ意識は戻っていないことがわかる。だが、周囲にイノシシの双子はいない。あの双子は大丈夫だろうかと不安に思いながら、ダポンはゆっくりと倒れている男の下へ近寄った。

 足止め用の薬を打つか、足でも折るか。

 もうこんな風に追ってこられるのは困るのだ、非常に。計画が狂ってしまうではないか。
 汗が噴出し、全身が疲労で悲鳴をあげている。
 だが、それを無視して一歩一歩踏みしめた。
 いったん始められたこの計画は、一切の『予定外』を許さない、非常に繊細なものだった。始まったからには、必ず、何があってもやり遂げなければ―――強迫観念にも近い想いがダポンにはあった。いや、むしろ正確に言えば、それを成功させるだけが今生きる理由そのものだ。
 ゆえに、その計画が失敗するなんて、想像すら出来ない。もしもという言葉はもはや彼の脳内にはないのだ。
 ソース入りの気球を飛ばし、それをギリギリのところで魔法使いたちが抑え、自分の根城が発覚して追ってくる、そこまではきちんと予定通りだった。だが、ネリーちゃん自身がここまで来てしまうのは慮外の出来事で、だから、逃げなければならなくなった。
 ゾロリが来たために、情報局員たちはあの少女までも利用したのだ。そう思うと胸の底がむかむかと苛つく。
 この計画に、番狂わせは許されない。
 『何か』があっては『話』は変わってしまう。
 そう、物語というものは、常に、一方通行で一本道のストーリーでなければならないのだ。
「……ゾロリ」
知らずうちにぼそりと呟いた。
 その言葉を端にして、蘇る様々な記憶。
 遠い昔のことのように思えるが、現実の時間では魔法の森を封印してからまだ二ヶ月か三ヶ月くらいしか経っていない。せっかく精霊たちを封印したと言うのに、この男が次々にそれを解放してしまった。

 余所者のくせに、迷惑な。

 ダポンの中に言い様のない不快感が広がる。
 この男さえ魔法の国に来なければ、もっと事態は上手くいっていただろう。魔法の森は力を失い、そして自分は、とっくに追い詰められて殺されていたはずだ。それの方が何倍も良かった。
 ―――事態がややこしくなってしまったのはこの男の所為だ、と当然の結論に至った。
「叩きのめしてやる」
低い声で誰へともなく呟く。
 動けなくなるなんかではぬるい。殺してしまった方が今後のためにも良いではないか。この男はいつも事態を引っ掻き回して、事態を思わぬ方向へ導いてしまう。

 邪魔な奴。

 酷薄な笑みが口元に浮かぶ。
 覚悟を決めた、その瞬間だった。


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