[ [ [  Storyteller  3  ] ] ]


 月が水面に浮かんで揺れていた。
 水底が見える程に透き通った湯。顔は冷たく、息は白いが、湯は少し熱い。湯と外の温度差が余計に心地よくさせる。ここ数日の疲れが体内の奥底から湧きあがり、そして湯に溶け出してゆく。
 首を上げると、眩いほどの星月夜。
 そして例の三日月。
 紫色の化粧が湯に溶けた。
「もう少しで、お仕舞いだ。
 ……ネリーちゃん。今日あれだけ暴れたから、もう、勘違いはしていないと思うけれど。大丈夫だよなぁ……」
それだけが心配だ。
 あの少女は今日も自分は悪い人ではないとかそんな下らないことを言っていた。多分もう、そんな思い違いをしていないだろう。ドラゴン牧場の件は失敗だった。
 次に会ったとき、おそらく、エージェントたちは全力で殺しに来るだろう。まあたとえ、殺さなかったとしても―――魔法を使えないヤツなどまともに相手にしないという可能性もあるのだから―――いざとなったときの薬の用意はきちんと出来ている。

 悪い奴は善によって滅ぼされる。
 利用された君は可哀想な主人公。

 幼い頃に流行った歌を調子はずれに鼻で歌う。
「ピンチのときに飲む薬、ねぇ」
先ほどポーチから落ちた小瓶をふと思い出した。
 月から落ちた雫、象刺しの蜂の毒、マナカラの牙、細黒い糸筋の毒葉。
 ―――だと、思う。香りから読める分には。
 どれも劇薬の材料。いくつかは、今は採取出来ない。ダポン一族に伝わる最高級の秘密の薬。
「ただの毒薬なのに大袈裟だなぁ。ご先祖様は」
どんな効能か、なんて、本当は疑問に思うまでもない。
 あんな毒薬を重ね合わせれば、きっと一瞬で昇天だ。
 普通の毒も持って来たが、いざとなったらアレを飲んでみるのもオツだろう。長年ずっと気になっていた成分が自分だけわかるなんて。なんて楽しいことだろう。そう考えると少し気分が晴れてくる。
 街にウスターソースを降らすなんて、悪い奴のすること。
 同じように、魔法の森を封印するのも悪い奴のすることだ。

 君は悪くない。
 そう、だから、どうか、お願いだから。

「もう、泣かないで」







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