[ [ [ No pain,no heart. 6 ] ] ]
「せんせに酷いことしたから、ダポンを一発ポコリとやってやるだ!」
「んだ。
でも、ゾロリせんせを治してくれたからお礼もしなきゃいけないだ!」
「そうだ。
じゃあ、お礼して、それからポコリとするだ」
「ノシシ。そりゃいい案だ」
「わかってくれただか、イシシー」
病院の玄関のところで待っていた双子は、待つよりも二人でダポンに会った時の計画を立てるのに夢中になっていた。
陽だまりの中、小さな身体をコロコロと転がしながら喧しく声をあげる。ベンチに座っていた人々は彼らを眺めているうちに、自然と笑みが浮かんでしまうのだ。
子供たちは気づかない。待ち人はとっくに来ているというのに。
厚い硝子の自動ドアの傍の壁にもたれかかって、ゾロリは入院患者たちと同じ穏やかな目をして二人を見つめていた。あの逃亡者の下へ行かねばならないとはわかっているのだが、まだいつもの行動力が戻ってこない。その処方箋には、幼子たちの屈託の無い笑顔ほど良いものは無い。
ようやく回復して、ゾロリが声を上げる。
「イシシ、ノシシ。待たせたな」
双子は同時に首を回し、せんせぇと甲高い声を上げながら諸手を上げて寄ってきた。我先に師匠に掴みかかる子供たち。ゾロリは苦笑いを浮かべる。
先に彼の肩によじ登ったイシシは、気がついた。
目のもとが、赤く腫れ上がっている。
「せんせ。まだ傷は痛いだか?」
「ん? いや。よく効く薬だったからな。もう全快だぜ。
……ただまあ、なんだ。
別のところが痛くてなぁ……」
*****
電話を切った直後、ゾロリは診療台に顔を伏せて泣き出してしまった。それでもはじめは、一応自制のきいた嗚咽だったのが、やがて手放しの号哭に変わり、その辛すぎる現実におぞけふるいながらも観念した。
咽がつかえ、遣り切れない思いに身悶える。
喉の奥で奏でる、壊れた笛のような息遣い。叫べない声帯の代わりに、いっぱいに見開いた瞳から、止め処なく涙が溢れた。診療台からずるずると身体が落ちて床に蹲った。
体中が痛くて痛くて痛くて。
痛みを理解出来なくなった哀れな青年の代わりに。
しゃくりを上げて涙を零す。
もう、どうにもならないのだ。それは解っている。けれど―――。
あまりにも惨たらしくて、痛い。痛い。痛い。
あんなにも歪な精神状態をしていたのか。お前は。知らなかった。何も知らないで、たんに同情していた。差別されていたから魔法使いを憎んでいると、それだけだと、思っていた。
嗚呼。俺は間違っていた。
何もかも、間違って、あんな簡単な同情を抱いたんだ―――。
自分というものが全て壊されて。
泣くことも怒ることも許されない。
吐き出せずに、ただ溜めて。溜めて。溜めて。
ネリーちゃんの言葉がどれだけ彼にとって特別なのか。
何も掴んでない手をきつく握りめて、目を開く。滲んだ視界で、空を見た。春の喜びが満ち溢れた長閑な蒼天だった。いつも己を見守っていてくれる人々の顔を浮かべ、腕でごしごしと目元を強く擦る。歩き出すために。迎えに行くために。だが起き上がる力すらも湧かない。
手を胸元で交叉させて、肩をきつく抱きしめた。小刻みに震えているのは、手か、肩か。胸の奥から込み上げてくるものが抑えきれそうにない。
どうして、そんな、悲しいくらいに狂っているんだ。
どうして誰も助けてやらなかったんだ。
……どうして、そんな状態なのに、生きてきたんだお前は。
ゾロリは青空に向かって首を起こす。
そして、世にも哀れな嘆きの遠吠えをあげた。
*****
「オラたちせんせの行く所ならどこでも行くだよっ」
「たとえ火の中水の中、地獄の果てだってお供するだぁー」
二人の声に、ゾロリは現実に引き戻された。
肩で息巻く双子。
その確かな重みを感じて、病んだ精神に冒されてかけていた彼は少し心が軽くなる。そう、この二人が、いつも傍に居る。一人じゃないということがこんなにも心強いなんて、きっとあの青年は知らないのだろう。
「よーしっ。じゃあ急ぐぜっ!」
拳を天高く突き上げて。
ゾロリは双子を双肩に置いたまま力の限り大地を蹴った。
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