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自分で勝手に看守になると決め、いきなり囚人を家に引き込んだことから始まった二人の同棲生活は、案外にも上手く営まれていた。
それは生活に無頓着な狸の気質が全てを投げた所為か、それとも横暴なエリートが無理を押し通しきったので道理が引っ込んでしまった所為なのか。もっとも、一方は結婚前提の甘い同棲生活のため、もう一方は家賃と生活費をたかるため―――とその根本は大きなズレがあったが、まあ今のところそのズレに一方が気づいていないので薄氷の上のような平和な時間が形成されていたわけである。
魔法使いのエリートという面があるのかどうかわからないが、器用貧乏なロジャーはなかなか料理にも才能があった。美味しいと言われれば、自然に作ることが好きになる。好きこそもののという格言どおり、彼はすっかり料理の魅力に嵌っていた。
魔法の国の大衆料理は勿論、伝統料理から魔法料理までありとあらゆるレシピに挑戦する。今夜も有難がらない同居人のためにミルクカレーという最近知ったばかりのメニューに挑んでいた。
玉葱を炒める香ばしい音は、キッチンを越えてダイニングまで伝わってくる。寝そべって薬草の本を読んでいたダポンは、おもむろに首を上げて立ち上がった。
後ろの気配にロジャーが振り向くと、ひょこひょこと小さな体を揺らして同居人がやってくる。
来たな、と口の中で呟きながら見ないで胡椒をぱらぱらと振りかけた。
「どうした?」
来た理由は勿論判っているが、敢えて彼はそれを尋ねる。
この野郎と毒づきながら、笑顔を少し強張らせたダポンは丁寧に回答した。
「夕飯、いつ出来ますか?」
「残り五十八分三十二秒だ」
「……へえ、一時間くらいありますね。
何か食べても良いですか?」
「駄目だ」
ぐぅぅ。
―――と、正直な彼の腹がタイミングよく音を上げた。
ダポンは短い手でそこを撫でてから、恨みがましい目で料理人を見つめる。にやり、とロジャーは口元を引きつらせた。
戦いの火蓋がきって落とされた。
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