[ [ [ 花嫁大作戦、失敗。 3 ] ] ]
ガオンのお城には無駄に部屋があるだけではなく、無駄に物がある。歴代の王族が使った衣装を保存しているという部屋にゾロリは連れてこられた。
「…………これ、部屋じゃねえよ」
扉からある程度予想していた彼は、それを開いた後しばらく沈黙し、そして低い声で不満げに呟いた。
天井までの高さはおよそ十メートル。部屋を横断するよう長い棒が何本も通され、そこにぎっしりと服がかけられている。棒は部屋の隅の切替え装置で動く仕掛けだ。このお陰で、劇場くらいにあるこの空間に隙間なく服が収められているのである。
「メイクキットも一揃えある」
ガオンの爪を指す先には、大きな鏡台と着替えるための場所がある。
「よしわかった。
三本勝負だ。じゃあ、まずは俺様から御題を出すぞ」
「ふん。何でも言ってみろ」
「そうだな……。
じゃ、清楚で可憐なワンピースだ」
ゾロリのその一言がスタート開始の合図。ガオンは一気に駆け出し、出遅れたゾロリも慌ててその後を追った。
二人は部屋の端から端まで駆け巡る。
あっちで服が飛び、こっちで下着が飛ぶ。後ろからこっそりついてきた執事とメイドの一行はその様子に声が出なかった。青褪めていた。今日の残業も決定したが、明日の残業も決定した。
そして三十分後。
衣裳部屋で少し広い空間に、二人の女性(……?)がびしっと並んで立っていた。
一時代遅れたような桃色の水玉模様に提灯袖。ふわふわの茶髪がそっとかかるピンク色の頬。目元のアイシャドーが薄めなのが、彼女にしとやかさを添える。全体的にどこか不粋なセンスではあったが、野暮ったいというよりは、貞淑な女性のようにみえた。―――勿論、中身はゾロリであるのだが。
しかし彼女の前にいた女性も、負けて劣らずの美婦だ。金髪のカールのかかったロングから見える、長い眉毛とブルーグレーの瞳。神秘的な雰囲気に似合う、女神のような真っ白な衣装。ガオンの選んだのは、太陽とオリーブで有名なギリシア地方の古代の女ものの服だ。
大きな布を巻きつけただけなのに、その服は彼女の全身を包みこむ。胸元も、うなじも、腕も、少しも外からは見えない。見えそうなものが隠されているがゆえに、余計に人の興味を惹いてやまない。
……甲乙つけるのは、確かに難しい。
「やるなぁ」
「……お前もな」
ふっ、と二人は同時に笑う。
互いに相手を認めたときにだけ見せる、その顔。
だが気はぬいていられない。
「では次の御題は私からだな。
次は…………男を惑わす制服だっ!」
ゾロリが選んだのは婦人警官だった。シャツを着ていないエロティックな雰囲気を背負って、しかも編みタイツとかなり挑発的な服装に仕立てあげた。長髪ストレートをさらりとかきあげる仕草は、どこで覚えてきたのかひどく淫靡だ。
一方ガオンは、海軍の制服を着てきた。
―――だが、それは、男物。あえてサイズの大きい服を選び、しかもズボンは履いていない。制服は釦がとじてなく、ワイシャツの下にある大きな膨らみが見える。偽乳だとわかっているのに、男の欲情をかきたててしょうがない。
青いシャドーに塗られた目をぱちんとウインクされると、男とわかっていても気持ちがぐらつきそうになる。ミニスカートよりも長いのに、何故だか、その無防備さが足をより綺麗に見せていて、ゾロリは思わずごくりと生唾を飲み込んだ。
「なんだよそれっ! 女装じゃねえー」
びしっと指差しながら批難をすると、乙女が薄く笑った。
笑うだけで何も言わない。
もはや、勝ちを悟った笑みだ。
「だぁぁあああああ―――っ!
第三のお題だ。
次は、次は、次は可愛い花嫁さんだぁ―――!」
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