[ [ [ Romanticが☆止まらない ] ] ]
太陽が東の空に輝く街の一角。朝市帰りの商人たちの波を縫って、ゾロリ一行は街の奥へ奥へと細い路地を進んでいた。
街の中央にある食堂が非常に美味しいという話を露天商から聞いて、そこを目指して『いた』のだが。―――入ってきたばかりの旅人は知らなかった。この街は予想以上に入り組んでおり、道も細い。書いてもらった大雑把な地図は、行き先を教えるどころか見事に三人を迷子にしたのである。
なんとか大通りへ出ようとすればするほど、不思議な迷宮のような世界へ入り込む。空腹と旅の疲れで、へとへとになりながらゾロリは風の教えるままに進んだ。
そして、一人がやっと通れるような小道から、ようやく少し広い道へ出た。やったぜ、と双子は師匠の声を聞いて顔を上げた。その道の先に、大通りと接続しているのが見えた。
『わーいっ』
「ちょっと待て、そう急ぐなっ!」
駆け出す子イノシシたち。
が、突如、その視界を不思議なものが遮る。
黒尽くめの男たちがずらりと彼らの行く道を立ち塞がった。
サングラス、黒いスーツ、黒いズボン。怪しいことこの上ない。しかも三人には、恨まれる相手に心当たりが多すぎる。
「せんせ?」
と、イシシがズボンの裾を引張って不安そうに見上げる。
「せんせ?」
と、ノシシも引張って見上げる。
キツネは庇う様に二人を自分の後ろへ下がらせた。振り返れば、後ろにもずらり男たち。細い一本道では、逃げ道はない。自分の使える百の手段を一瞬で検討し、その全て無駄だと一瞬で判断する。
囲まれたか、と内心舌打ちした。
ほかに逃げるルートはないか探りながら、相手の出方を注意深く伺う。
―――だが、黒尽くめの一人は手を出して他の者たちを下がらせた。追い詰めるつもりはない、という意思表示。
不思議そうな顔をするゾロリの目の前で、男はサングラスを外した。
輝いた瞳。
柔らかな猫耳がぴくんと黒い髪からのぞく。
女性のようなその顔に、三人は見覚えがある。
『シャットさんだー』
「ゾロリさん、イシシさん、ノシシさんっ。
申し訳御座いません、王子を、ガオン王子を助けてください」
ガオン王子のお付の若執事。
シャット・シェーンは真っ赤に腫れた目からさらにぶわっと涙を零してゾロリの細腰に勢いよく飛びついたのだった。
*****
専用小型ジェットという名の小型じゃないそれにキツネとイノシシは運ばれて、彼らが椅子に座るなり、全ての飛行機の発着を止めて出発した。三人がシャットと出会ってわずか一時間後のことである。
シャットはここに至るまでの道中、一言も話さなかった。話せなかった、というべきか。赤信号から、踏み切り、川、山、工場、邸宅、国指定の立ち入り禁止区域など色々なものを無視した荒い運転で一直線でここまで来たのである。ハンドルを握り締めて、真っ直ぐに前を見て、ただ只管にアクセルを踏んだ。
だが時折、冷や汗に混じって大粒の涙が零れていた。想像を絶する激震に車内でぐちゃぐちゃに揉まれながら、ゾロリは驚いた。一糸も乱れず、気配なくガオンの傍に控えているイメージしかなかった。この男、こんな顔もできるのか、と新たな一面を知った。
「で。
ガオンが、どうしたのか?」
ようやく落ち着くことが出来て、開口一番に尋ねる。
さっきまでは口を開いたら舌を噛みかねない状況だった。
シャットは俯き、唇を噛みしめる。握りこぶしが微かに震えているを見て、ゾロリは血の気が引くのを自覚する。
助けて欲しいという言葉、彼の必死な表情―――
想像は転がるように悪い方へ落ちていく。
いやがおうにも高まる緊迫感。
イシシとノシシですら、黙っていた。じっと男を見つめていた。
緊張が最高潮に達した瞬間、執事は血を吐くような声でとうとう言った。
「王子が……王子が…………病気にかかられたのですっ!」
びょうき、とゾロリの唇だけが動く。
声が出なかった。指一本も、動かせない。
双子も思いもかけぬ言葉に一瞬天井まで飛び跳ねて、それから抱きしめあって大泣きを始める。その一言は三人に大きな衝撃を齎した。
自分にかけてくれる優しい笑み、大きな手、そして数々のメカ。それらが走馬灯の様によみがえる。メカイシシやメカノシシを作るような酷いこともしたが、それでも、双子にとってあの大きな存在は忘れがたいのだ。
「それでっ、容態はっ!? 治るんだろうなっ!」
泣き声に正気に戻ったゾロリは、眼前に座っていたシャットの胸倉を掴んで食いかかる。
「薬は、あるのですが……っ。
それを作れる世界で唯一の薬剤師が、来てくれないのですっ!
三ヶ月放置すれば治るからホットケと……っ」
「ヒドイだー」
「許せないだー」
プンスカと泣いていた双子は怒って息巻く。
それはキツネも同意見。
「なんだよそいつ、攫って作らせちまえばいいじゃんっ!」
「勿論、もう攫って王宮に閉じ込めていますっ!
実は、王子のかかった病気は魔法の国の独特な風土病で、魔法の国の医者ではないと治せないのです。しかも滅多に発生しない病気らしく、三ヵ月後に治る病気を研究するのは馬鹿らしいと研究が進んでなくて……。
薬剤師は、強制的に連れてきたら、薬は作れるけれど魔法は使えないとおっしゃって。
そうしたら薬剤師を追って来た魔法使いが、自分ならその魔法は出来るというんです。
ただ二人とも口を揃えて、その薬を王子に摂取させるのが難しい、と。
それをするくらいならば三ヶ月待ったほうが良いとっ」
「どうすりゃいいんだっ! 難しいっつっても、方法があるんだろっ!?」
ゾロリが叫んだと同時に、強烈な振動が四人を襲った。
飛行機が、いつの間にか着地したのだ。
気圧の変化や大きな振動に気づかないくらいに、彼らは興奮していた。
扉が外側から開かれ、外の騒音がジェット機の中に流れ込んできた。
はっとそちらに気をとられたゾロリを、シャットはゆっくりと押し戻して立ち上がった。一礼して、執事らしい動きで戸口のところまで進む。
ついて来てくれ、という態度に慌ててゾロリたちも後を追った。
狭い戸をくぐれば、そこは王宮の発着場。眼前にはガオンの住まう城が眼前に聳えている。いつ見ても、本当に大きい城に場違いにも双子は感嘆の声を上げた。
沈鬱な顔をして、執事はぼそりと呟いた。
「……これ以上は私の口からは申し上げられません。薬剤師本人から聞いてください。
ゾロリさん、貴方しか王子を救えないんです……。
どうか、宜しくお願いします」
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