[ [ [  愛に言葉は要らない……で済むわけが無い。 3  ] ] ]


 変な感触がして、目が覚めた。
 腕を動かそうとしても、何故だかそれが出来ない。
 指は動く。顔も動く。金縛りではない。
 だが動かないのは足もそうだ。全身だ。
 どうして?
 ―――と、思うや否や、突然意識が外界を認識した。今まで閉じられていた扉が急に開かれたように、一気に多くの情報の波がゾロリの意識を襲った。

 ぺちゃっ。ぴちゃんっ。ばちゃっ。

 なにやら独特な音が耳に入る。目の前にはなにやら黒く蠢く物体。鼻を突く生臭い匂い。体中を這い廻る総毛立つような感触。気色は悪いが、気持が良いといえばそうな。
 いや、善かった。
 官能の回路は既に起動状態。青年らしく若く元気の良い下半身は、反応を見せて膨らみ始めていた。
 何だか気持ちが良いのは確かだが、何かが気持ちが悪い。
「……いや…だ…」
 洩れる己の声。
 そこで、彼は、我に返った。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!」
 ―――途端、盛大な悲鳴を上げた。


 うなぎだ。そこら中……そこら中、ウナギがひしめいている。


 ウナギが口にまで押し入ってきて、苦しくなって慌てて口を閉じた。あまりといえばあまりの状況に、混乱に意識を割かれながらも、逃出そうと全身を揺らす。だが、身体が少しも言うことを聞かない。
 なんとか自由のきく顔だけを動かして視線を彷徨わせると、なんと、目の前には恋人が、顎に手を当てて優しい顔をして見下ろしていたのだ。
 薄く笑っているのですらわかったが、ゾロリは腹が立たなかった。
 むしろ、あまりに疑問がありすぎて、一杯一杯だったのだ。

 なんで、どうしてっ!? 

 迫り来るウナギの波を首を振って避けながら、涙を浮べて大きな目で必死にオオカミに訴えかける。
 ゾロリにはわからなかったが、彼は今、手首を後ろ手で縛られ、全裸で仰向けにされて、大きな盥に転がされていた。キツネ一人入ってもなお余裕ある盥に、さらに大量のウナギが入れられ、産地直送のいきの良いウナギたちは彼の周囲で元気よく飛び回っている。
 ゾロリの足は、膝を折り畳み、腿と足首を太い皮紐で拘束されていた。しかも膝の裏には一本の太い棒をかまされて、彼の意思では股を閉じることは出来ない。
 惜しみなく曝された恥部。
 ウナギはまるでそれを知っているかのようにゾロリの半身に絡みつき、きつく絞る。それに応じて、そこは少しずつ首を擡げ始めていた。
 だが、彼を追い詰めていたのは前からの刺激だけではないのだ。
 なんと、ウナギの一体が、背後からその小さい穴へ潜り込もうと必死で抉じ開けようとしている。いや、その表現は不正確だ。もう三割ほど入ってしまっている。
 狭い体内をぐいぐいと強引に広げる感触。ゾロリの中に無遠慮にも押し入ったウナギは、さらに奥へ進もうと前進をくねくねと激しく捩っていた。
 そのダイレクトな刺激は、キツネにはたまらなかった。

 う、うご、うご、動いているっ!?

 しかもウナギは快楽を齎すツボを見事に攻撃してきた。痛みに混じる三大欲求を刺激する危険な甘い痺れ。
 変な体位を取らされている所為で後部に思うように力が入らない。無遠慮な闖入者はこれ幸いとばかりにどんどん進んでいっている。
 冷静にしていることなんて出来るわけがない。
 このままでは、ウナギにいかされてしまう。
 嫌悪感が体中をめぐって、とうとう彼は叫んでいた。
「が、ガオンっ! た、助けてくれっ!」
悲鳴に近い声で助けを求める。
 それを見下ろす男は、あくまで酷薄な笑みを浮かべていた。
 そして、口を開く。

「好きなんだってな、ウナギ?」

確かに十分前、そんなことを言った。
 そして間違いなく、うなぎは好きだ。
 しかしそれはあくまで、焼いて調理されてタレに付けられて熱々ご飯の上に載った丼状で出てくるウナギが、である。生が嫌いというわけではない。……だが、こんなウナギに食われるような状況では、嬉しいはずはない。
 反論を上げたかったが、喉が強張って声が出ない。
 それにもう、そんな覇気は消え失せていた。下肢は限界まで張り詰めて無様な姿を曝している。
 怖くて、惨めで、気色が悪くて。
 一刻も早くここから逃出したかった。
 涙をぼろぼろ零してゾロリはガオンに屈従した。
「お……ひぃっう、くぅ……ガオン……出して…………」
一言言うたびにウナギが口に侵入しようとする。それがとてつもなく怖い。
「人に物を頼むならば、それなりの言い方をしてもらおうか?」
「ここから……出して……くら…さい………お、お願い…………しま……す」
言われれば、躊躇無く服従の言葉を口にした。
 だが意地悪なオオカミは、嫣然としているだけでなかなか動こうとはしない。
「実は、今、大変困っている問題があってな。
 それをなんとかするのに、是非君の助力が必要なんが、どうだろう、快く受けてもらえないだろうか?」
焦らすためにあえてゆっくりと、丁寧な言葉遣いを選ぶ。
 泣き崩れるキツネには、そんな些細な悪戯ですら壮絶に辛い。それほどのっぴきならない状況まで彼は追い詰められていた。
「受けるっ……っから」
「なんでもする、か?」
もうここから逃げられるならなんでもいい。
 鼻を啜りながら、必死に、だが途切れ途切れに、ゾロリは相手が最も求めている言葉を搾り出す。
  「……します。
 なんでも…………しますから…。
 しますからぁ…どうか………出してぇぇ……」




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