[ [ [  Have a bad day,  2  ] ] ]


 その祈りが通じたのか、嬉しいことにギリギリと一般薬は足りそうだった。
 鼻歌をあげそうになるくらい気分よくダポンは台車を押した。最後はAエリア、魔法の国の情報局でも最も重要部分にあたる、エージェントたちが集まる地区。廊下を歩いていると、魔法を使って凄い速さで駆け抜けていく人がいた。ここはいつも忙しい。
 Aエリアまで来ると、廊下に窓がある。見れば、魔法の国の隅々まで一望できるほど高い。
 ダポンはその光景に一瞬見蕩れて、足が止まった。

 空が近い。雲も近い。あそこに、届きそうな気がする―――

「どいてくれぇっ!」
大声にはっとしながら身体を窓に押し付ける。強い風が吹きぬけて、耳に痛みが走る。その痛みが消えた頃には、魔法使いのマントが遠くに見えるだけだった。
 仕事だろ、と己に言い聞かせて足を再び動かした。それに、どうせ一ヵ月後にはまた見られるのだから。
 最後の部屋の扉の前に立った。Aエリアで最も人が集まる管制室と資料室との間の緩衝地帯で、倉庫利用されているために滅多に人は来ない。ここで終わりだ、と意気揚々とノブに手をかけた。
 「あっ……」
 だが、今日に限って、人が居た。
 数人の先客が、片手に珈琲を持って円になって立っていた。
 気まずそうな顔を見せたが、相手がただの仕入先の薬屋だとわかると直ぐに顔を戻す。雰囲気から察するに、どうやらここで仕事をサボっていたようだ。
 ダポンは丁寧に頭を下げて、仕事を始める。驚かなかったといえばうそになるが、人がいようがいまいが補充には関係ない。
 彼が闖入した所為で、魔法使い同士は魔法で会話を始めたようだ。彼らにはわからないが、魔法の使えない者にはわかるのだ。その目が、微妙に変化することが。
 どうせ下らない―――または、吐き気のするような―――噂を伝え合って喜んでいるのだろう。昔、好奇心から、魔法使いの使う盗聴器というものを自分なりに改良してつけて生活したことがある。他人はどうでもよいというスタンスで生きていた彼でも、流石に、精神を病んだから止めた。
 聞こえないというのは、多分、自分に与えられた能力なのだと思う。

 魔法使い様は、全く、魔法が使えない出来損ないを見るのは珍しいだろう?

 と、タヌキは自虐して内心こっそり哂う。


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