[ [ [ Have a bad day, 3 ] ] ]
だいたい自分を初めて見る人々は、同じ反応しか返さない。
魔法の国に住みながら魔法が使えない者への軽蔑と、魔法の良さを享受出来ない者への同情と、そして、自分がマシであると再確認する喜び。
ダポンが部屋の端で引き出しを開くと、有難いことに一番消費する傷薬があまり減っていなかった。これがかなり残っているということは、先月は大きな戦闘や事件がなかったということだ。おそらく今台車に残っている一般薬で間に合うはずだ。
手の届く高さにある引き出しから薬の補充を始める。補充が終わったときは、台車の一般薬はもう殆どなかった。
やりぃ、儲かった、と幼い笑みが浮かぶ。
いつの間にか、後ろの男たちはひそひそ話は止めて気兼ねなく大声で話し始めていた。
下らない猥談。シンディ・クロヒョードの胸の大きさについて、CカップかDカップかの白熱した論議。そして最近のグラビアアイドルの傾向。一人くらい異物が混じっていても、いったん会話が弾んでしまえばもう関係ない。
その微妙な空間の扉が、いきなり、開かれた。
「就業時間中だぞ。いい加減にしろっ!」
あまりの大声に、ダポンは一瞬薬瓶を落としかけた。
指定薬は替えを持ってきてないから、これを壊したらそれだけで往復決定である。垂れた耳を真っ直ぐになるくらい焦ったが、運良く瓶は落ちずにぎりぎりの一本の指で持つことが出来たのだが―――
「サボりたいならば辞表を出すがいいっ。
私の傍でされると不快だっ!」
ずかずかと入ってきたライオン族の男は、意味不明の言葉を堂々と言い放つ。円になっていた男たちは、しまったなと顔を顰めて互いに目で会話をした。上司ならば謝って済むが、規則に煩すぎるこの男にはそれが通用しない。それはロジャーの同僚である彼らは嫌というほど知っていた。
いいヤツだが、規則に関しては何でもかんでもやり過ぎるのだ。
「え、いやぁ……まあ、そう言うなよ。
珈琲一杯くらいなら申請なしに休んでもいいって、今月決まったじゃねえか。だからここが休憩室になったんだしさー」
「それは十分以下の短時間の場合だろう。
もう十分二十三秒も経過しているっ!
長時間の休憩の場合は申請が必要だ。いやしくも情報局のエージェント、規則を破るつもりならば辞表を出すがいいっ」
赤紫色の目を怒らせて、ロジャーは言う。
だが、その色が然程攻撃的ではないと見取って、同僚の一人はカップを彼に差し出した。低く空間転移の呪文を唱えれば、カップには並々と珈琲が湧きだしてくる。
おそらく、ロジャーも休憩しに来たのだろう。だが彼の場合、きちんと申請して来たに違いないだろうが。
「まーまーまーまー。
後で申請するから、そう怒んなよ。つい会話が弾んじまって、時間が過ぎてしまったんだ。ほら、最近の魔法の森の新薬? 研究者たちが凄い調合の仕方みつけてさぁ。話題になっただろ。ま、飲めよ」
「そ、そうだな。後で申請しますから、どうか」
「するからよー」
口々に懇願されて、一瞬眉根をしかめたもののロジャーはカップを受け取った。
後で申請をするなら、規則上は問題はない。
珈琲を受け取ると、彼好みの酸い味の強いキリマンジャロベースの味だった。香りもなかなか。珈琲好きの同僚は、わざわざ自分の家から持ってきた自信のブレンドを分けたのである。ロジャーが飲む様子を見て、男たちは胸を撫で下ろした。
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