[ [ [ Have a bad day, 4 ] ] ]
彼らは大きく勘違いしていた。ロジャーは珈琲で気が緩んだのではなく、もはや、彼らへの興味がなかったのだ。この部屋に入った瞬間から、心穏やかではなかった。部屋の隅でまめまめしく働いている仕入先の姿。それが、老翁のタヌキではなく、数ヶ月前に会った若いタヌキなのだ。
まずは嬉しさがこみ上げた。同じ場でともに働いているという事実に。
だが、数秒でそれは打ち消された。
―――数ヶ月前の失望が蘇ったからだ。澱のような黒い感情が、身体を包むのに時間はかからない。
彼にとって、私は、どうでもよい存在なのだ―――
自嘲するゆとりなんか男の中に存在しない。
ぎりぎりとカップを掴む手に無駄に力が籠もる。あの思い出も、約束も、それを裏切ったという結末も―――何もかも大切なそれらが、全てを穢された気がした。ひいては、それを大切にしている彼自身を見下されているように思えた。
ロジャーは目だけでその姿を見る。
魔法使いたちには一切注意を払わず、せっせと薬の補充をしていた。
この部屋の左手と奥の壁は、一面に二十センチ角の小引き出しが並んでいる。引き出し一つ一つにネームプレートが掲げられ内容が外から分かる。エージェントたちは申請さえすればここの薬を好きに使ってよいことになっていたが、ここになんの薬があるのか正確に把握している者はそういなかった。何せ、引き出しは二百以上あるのだ。
タヌキは一つ二つ薬瓶を持つと、迷わず一つの引き出し開けてそこにしまう。動きに無駄がない。この薬剤師はそのすべての場所を一つ残らず覚えていた。実に数十種類の指定薬の補充を頼まれていたのだが、驚くべき早さで片付けていた。
今回は指定薬の注文が多かった。というのも、先月、ダポン薬局の新製品に受注担当者がいたく興味を示してくれたお陰だ。
特に赤の瓶に入った火傷用の薬は、社長一族二人で作り上げた自信作。その薬瓶をとって、タヌキは静かに笑みを浮かべた。ある種、火傷用の薬の根本から変える様な方法で調合したのだ。その調合方法を見つけたのはこの若き薬剤師だった。
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