[ [ [ Have a bad day, 6 ] ] ]
獅子は唐突に、真顔に戻った。
嘘臭い笑みが消えた。
部屋の空気が張り詰めたことに、魔法使いでもないタヌキまで気がついた。ロジャーの膨大な魔力が蠢いて、攻撃的変化したのだ。和やかな空気は一変した。
「本当だろうな?」
低い声でぼそりと詰問する。
薬剤師は、相手の急激な変化についていけずに戸惑う。
動けなくなった彼の額に、ロジャーはそっと右手を置く。
「完治、するんだろうな?」
再度、問う。
眼光が鋭く光った。
本当は、答えなんて待っていない。イエスでもノーでもすることは同じ。もう止める気は初めからないのだから。
単に、己の憤怒を伝え、恐怖を煽るためだけの所業。
薬剤師が口を開こうとする、その直前。
ロジャーは『言葉』を口にした。
―――{katin gotin katigotin]―――
小さな空間を埋め尽くすほどに溢れる光。
切り裂く絶叫。
男の手から現れたのは強力な炎。一瞬で部屋全体が灼熱の地獄と変わる程の。彼の腕まで赤い火が包み、めらめらと揺らぐ。その烈火は薬剤師の顔は勿論、上半身全部を喰らい尽くす。
魔法で生み出す炎は現実のそれと僅かに違う。魔力、火力に比例してまばゆく白光の輝きを見せるのだ。突然の閃光と熱に、他の魔法使いたちは動けなかった。ロジャーの生み出した火炎はそれほどの威力を有していた。
ダポンは無意識にロジャーの腕を掴んだ。ロジャーはそれに呼応して掌に力を込めて火勢を強めた。
悲鳴に、意味はない。
だが声をあげずにはいられない。
獅子は笑っていた。
外面用ではなく、心の底から。声を上げて、朗らかに。
赤紫色の瞳に映る炎。一メートル離していても火の粉は飛んでくる。だが、自分には耐火力用の防御呪文をかけている。熱くもなければ眩しくもない。
目の前で慌てふためきながら悶えるその塊は、予想していた以上に面白かった。初めは精一杯の力で手を握り外そうとしていたが、ある瞬間から、パニック状態になって手を放した。空を切る短い手。それが未開封の薬の箱に当たって床に落ちて割れる。その頃には声は聞こえなくなっていた。暫くして、動きもなくなった。塊は戸棚に寄りかかってただの置物になった。
もう終わりか。
炎を止めて、手を外す。
嫌な匂いが部屋に充満した。炎が消えた瞬間白い煙が上がった、それの所為だ。
毛は抜け、どこもかしこも黒い。目と鼻の区別もつかぬくらいに平坦になった顔。ただぽかりと口だった部分が間が抜けたように開いている。耐魔法製なのだろう、服だけは変化がない。
グロテスクなそれに、ロジャーは何事もなかったように赤い瓶の魔法薬をかける。有り得ないほどの速さで陣を組み、Lv3の白魔法をその塊に与えた。
そこからは劇的な早さだった。
回復魔法は全身を包み、一方で表皮の一部で魔法薬が呼応するように光った。赤と黒に変色した肌は元の色に戻り、毛が新たに芽生えてきた。鼻の形も現れ、口も戻る。
後ろに近寄ってきた魔法使いたちから湧き上がる歓声。
二倍速で巻き戻しをする映像を見るような、どこか現実離れした光景だった。Lv10の火傷回復魔法を用いてもこんなに、早くは再生は出来ない。
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