[ [ [ No pain,no heart. 2 ] ] ]
「聞きたいことはそれじゃねえんだ。
もっと重要なことだ」
ゾロリからさっきまであったおちゃらけた雰囲気が消えた。
緊迫した沈黙が、電波の中を往復する。
否応なしに高められた緊張に、ダポンも本来の目的を思い出して神妙な顔つきを作っていた。馴れ合いなど必要は無い。
「…………。
で、お前はエージェントとか魔法使いとかと、何があったんだ?」
単刀直入な言葉に、一瞬、世界の音が喪失したような衝撃があった。
タヌキの目が据わる。中空の一点を見つめたまま動かない。
氷をバケツに一杯にいれて口から突っ込まれたように、胃の腑から体温が冷めた。アドレナリンを異常放出して完全にいかれた脳は、キツネの差し出した一言に狂った過剰反応を示す。
全身を悪寒が走って尻尾が強い力で岩を叩きつける。
……エージェント。……情報局。……魔法使い。
忘却の土をいくらかけても埋めることの出来ない禍々しい欠片。
忘れたと言い聞かせて今まで生きてきた。
なのに、身体は正直なもので。ただその名前を聞くだけでも心音が高鳴り全身から冷や汗が滲み出す。尻尾が自虐行為を繰り返すのも止められない。もう極端に取り乱したりはしないが、澱のように残っているそれらが、現でも夢でもどこまでも追いかける。
見える傷は全て魔法で治せるというのに。全く、魔法ってやつは肝心なときには役に立たない。
誰も見ていないというのに、唇を引き攣らせて強張った不気味な笑みを浮かべた。
「…………何も」
嘘臭いことは十分自覚している。
相手の真意がつかめない逃亡犯は、そのまま黙ってゾロリの出方を伺った。その目は怪しいくらいに爛爛と輝いていた。
一体あの不思議なキツネは、何を知っているのだろうか?
彼は、単なる旅人のはずだ。魔法の国ことなんか、この国の深層なんかわかるはずがない。況んや……そうだ、絶対に、知っているわけがない。
―――そう確信しているのにもかかわらず、一抹の不安が心の何処かにあった。
このキツネは全てを知り尽くしているような、そんな独特な雰囲気がある。
英雄に相応しい何かがある、と思う。だから彼をこの役に選んだ。
いつも冗談なようなことばかり一生懸命になって、イノシシたちと同じレベルでふざけているだけのくせに、時折、その真っ直ぐな瞳には逸らしがたい力が浮かぶ。篭絡されそうになるその前に慌てて顔を背けた。
困れば切ればいいだけだ、薬の調合の話を聞かなければならない以上彼はここに来るのだから。
ダポンは己に含めるように言い聞かせて、この沈黙を堪えた。
答えてやる必要なんて無い。
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