[ [ [  Please explain what you mean. 2  ] ] ]

 
 手紙の謎が解けたロジャーは、また新たな謎にぶつかる。
「ところで、OKとは、何を?」
報告書を横に置きながら、ダポンは椅子から立ち上がって伸びをする。肩に手を置いてぐきぐきと首を鳴らしながら、何事もないように答えた。
「ああ、ゾロリさんたち今度魔法の国に寄るそうなんですよ。
 だからこの家にに来ないか、って書いたんです。ま、広いから構わないでしょう?」
「……ゾロリが?」
思わず地を這うような低い声が漏れた。
 目を細める魔法使いに、狸は何も答えずにただ微笑む。
 心の奥底を見透かされたような気がして、ロジャーの全身が粟立った。疑心暗鬼に囚われた彼には、その笑顔の仮面の下に様々な感情が読み取れるような気がしたのだ。

 ゾロリとダポンは何か似ている、とロジャーは初めから思っていた。

 あの魔法の森でゾロリと出会ったときから。だから目が離せなかった。そして、あの事件で最終的にダポンが頼ったはゾロリだった。あれだけ長い時間を共有している自分ではなく。たった数度会ったに過ぎない相手にもかかわらず。
 魔法を使えない者同士の、独特な連帯感。胸の奥底で繋がる信頼。自分には決して入れない壁。
 それを現実に見せ付けられて以来、ロジャーは、どんなに自分を納得させようとしても拭うことの出来ない不安を抱えていた。

 ダポンは、本当は、魔法の使えない者が住む国へ行きたいのではないだろうか? そしてある日突然、ゾロリが連れて行ってしまうのではないだろうか?

 それを現に口にしてしまえば、誇大妄想だとか荒唐無稽だとか、一笑に伏されてしまうに違いない。だが、そう、この豆狸は、嘘を吐くのが本当に本当に得意なのだ。
 ダポンの丸く澄んだ瞳は、ロジャーの不安を見通しているように見えた。そして、本当に逃げてしまえば貴方は何も出来ないだろうと嘲っているように思えたのだ。

 ゾロリを堂々と呼んで、そして自分の監視を掻い潜って一緒に逃出すつもりか。

 彼の心で一つの仮定が出来上がる。目が鋭くなり、魔法詠唱一歩手前の不穏なオーラが全身から立ち上った。魔法使いが見ればその危険性に顔色を変えて逃出すだろうが、魔法の使えない者にはそれが見えない。
 ダポンは笑みを浮かべたまま、さっきから少しも動いていない。それがロジャーの仮定に確信を与えた。

 そんなこと、絶対にさせるか。一時だって目を放しはしない。甘言に騙されたりは絶対にしない。ここがお前の帰る場所なんだ。もう諦めろ。お前の家があるんだ―――……。

 不安がはじけそうになった瞬間、ダポンは口を開いた。

「ご安心ください。
 ロジャーさんは居なくて結構なので。というか居ない方がイシシさんとノシシさんが怯えなくて済むので。
 一週間くらいどこかで寝泊りしていて下さい。なーに、情報局の仮眠室使ってても文句は出ませんよ。多分。
 せっかくイシシさんとノシシさんが来るんだから、面白い家に改造したいんですよね。お風呂場に滑り台つけて、寝室にはジャングルジム入れるなんてどうでしょう。あ、居心地よくさせたいから、全室に冷暖房入れて下さい。とっとと」

 狸は全く別方向のことを心配していた。
 ……厳密に言えば何も心配すらしていなかったのだが。
 思わず一瞬バランスを失ったが、直ぐに復活してロジャーが叫ぶ。
「馬鹿者っ!
 絶対に居てやる、居座ってやるからなっ」
「えー」
「私がいるのが不満かっ!?」
不満を言っていいなら百も二百もあるが、言えばきっと殴られると確信してダポンは言葉を選ぶ。
「……いやまあそれなら仕方ないですけれど。
 じゃあ、ゾロリさんたちの出迎えくらいはお願いしますよ。来週あたりには魔法の学校の傍までくるそうなので。あと家の改造は手伝ってもらいますからね。ロジャーさんの魔法使えるならもう少しは楽しめるかな」
「なんでそこまで私が……っ」
「働かざる者食うべからず。
 嫌ならどうぞ出て行って下さい」
出て行けって……お前……ここは私の…………。
 寸でまででかかった言葉を、生唾とともに呑み込む。
 どうやら、まだ、当分はダポンは出て行くつもりはないらしい。
 嬉しいような悲しいような気持ちを抱えて、ロジャーは息をついた。そのくらい手伝ってやること自体はたいしたことではないのだから。
 その間に狸は報告書を持って研究室から出ようとしていた。ロジャーの傍にいると文句が多いので嫌なのだ。読むだけなのだからリビングでも構いやしない。
 扉の直前で、ふと、忘れていたことを思い出した。
 ぽん、と小気味良い音を立てて手を叩く。
「ああそうそう、なんか知り合いを連れてくるとか来ないとか。
 ガオン博士とか言う人も見たら、どうか連れてくるようにお願いします」
 ロジャーは、今日、三度目の驚愕を味わった。

 ガオン。

 脳内に電撃が走るその名前。
 今まで抱いていた不安や怒りなんかすべて吹っ飛んだ。
「あの馬鹿王子ぃぃぃぃぃぃ〜っ!?」
耳元の大声に、驚いたダポンの尻尾が飛び上がる。
 振り向けば、魔法の国一優秀な魔法使いは、頭をかきながら険しい顔をしてその場に蹲っていたのである。



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