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            ※ゾロリvsガオン編の直後くらいのお話。
 
 ゾロリがこの魔法の国に来てから一ヶ月過ぎたとき―――それはすなわち、魔法の森が封印された時から一ヶ月過ぎたときということだが―――ガオン公国の外交官がいきなり魔法の国の王族に脅迫まがいで捻りこんできた。
 その対応に、何故かロジャーが名指しでかり出された。金髪で茶色の狼族の男。成る程、噂に違わぬほどの美形だ。『王子様ランキング』の殿堂入りは幼き少年時代にとっくに果たし、雑誌に写真が載るとその号の売り上げは三倍にも四倍にもなるという数々の伝説で彩られたガオン公国の一人王子。いまだに婚約者の決まっていない所為かどこの国のお姫様にも憧れの王子様だという。
 だが。

「君がロジャー君か?」

 男の目が、好戦的に光った。金髪に隠れた青い瞳が、ロジャーの闘争本能をちくちくと刺激する。噂では、上品で物腰柔らかな態度で誰にも好かれる社交的な性格だとかいうことだが。……まあ週刊誌の言うことだからあてには出来ないのだが。
「ええ、そうですよ」
相手が一国の王子であることを一応心にとどめつつ、その最低限の礼を崩さないように気をつけながら返答する。横に座っている毛むくじゃらの上司がおろおろと顔色を赤にも青にも変えているのだが、今は見えなかったということに決めた。
「で、それが?」
「今、魔法の国では大変なことになっているそうだな」
「それは魔法の国以外の方には関係のないこと。
 ―――どうか致しましたか?」
「ほう。……魔法の国だけで解決してくれるというのかね。君は?」
獣の皮で表面を加工された座り心地の良いソファに座っているはずなのに、部屋の空気は冷たくて重い。燦燦と輝く太陽の光が別世界のもののように思える。息苦しさに耐えかねた情報局の上司は不明瞭な文言を呟いてから、立ち去ってしまった。
 二人きりになって、ガオンは紅茶に口をつける。
 喉が渇いたのではなく、場の空気を緩めるために。
 ガオン王子の外交手腕の方も評判だ。

「ゾロリ、という名前を知っているのだろう?」

一体この王子はどこで情報を仕入れてくるのか、耳が早い。
 っち、とロジャーは舌打ちをしてゆっくり頷いた。しらばっくれることはどうやら難しいようだ。相手は確実な情報を持っているゆえに、自ら振ってきたのだから。
「……魔法の森の封印を解くのを手伝っているらしいな」
「手伝っている? 邪魔をしているだけですよ」
「結果はどうでもいい。
 だが、魔法の国といえば、魔法による事件・事故がかなり頻発していると聞く。魔法の使えない一般人にはそれないに危険なのではないかな?」
熱い声でガオンが詰問してくる。ロジャーは鬱陶しそう髪をかきあげながら知りませんよと応えた。
「私は生憎その男には興味がないので。
 でもまあ、安全装置をつけない飛行機にのって墜落したりよくしてますから、それなりに危険でしょうね」
 やはりか……と呻くと、王子は顔に手で覆い隠して大きな溜息をついた。
 お前はゾロリのなんなのだ、と尋ねたい気持ちをぐっと堪えて、ロジャーは次の言葉を待っていた。
 燦燦と振り注ぐ太陽。鳥の鳴き声。そして―――

「ゾロリに傷がつかないよう、配慮をして頂きたい」

「楽しいご冗談ですね?
 あんな野宿者が何処で野たれ死ぬかなんて、わかるわけがない」
「わかりにくかったかな?
 では、はっきり言わせてもらおう。
 この国で、ゾロリの毛一本でも傷がついたら外交問題となる。
 ……我々ガオン公国としては、魔法の国とは今後も良好な関係を続けたいつもりだが、それを君一人の一存でヒビを入れてもいいのかな?」
王国の権力を振りかざされて、ぐっとロジャーの息が詰まる。
 どうして、初対面なのに、親の仇のように恨まれているのだ自分は。
 相手は王子だ。それは十分わかっている。だが、ここで引き下がるのは面白くない。
「……ガオン王子ともあろう方が、ずいぶんあの男にご執心のようですね」
「あの男? 随分と空空しい言葉を吐くな君は」
ガオンは忌々しそうに低い声で返答する。
 なんだかよくわからない返答だったが、ロジャーはふうと息を吐いて肩をすくめた。
「何故そんな乞食者なんかを王子がご存知なのか不思議でしてね。
 乞食でなく要人なのでしたら、魔法の国側のとしても、護衛もなく勝手に来られるのも困るのですよ。ましてや勝手に事件に首を突っ込まれるのは非常に困る。
 どうかそれを止めさせて頂きたいのですが?」
魔法使いは当たり前のことを言ったつもりだった。そして、確かに内容は至極当然だ。
 ―――だが、ガオンは大きく目を見開き、わなわなと手を震わせた。喉の奥から漏れる低い呻き声。怒りのボルテージが膨れ上がっているのが目に見えてわかる。
「どうしてゾロリがこの件に首を突っ込んでいるのかを、お前が、問うのか?」
と、それだけ、返された。
 わけがわからないとロジャーは小首を傾げる。
「巻き込んだのは、お前なのだろうっ!? 魔法の森の封印も、お前が関与したからゾロリが動いているのではないかっ!?」
「……王子、失礼ですがおっしゃっている意味が全くわかりません。
 私はエージェントですから、魔法の森の封印を解く為に仕事をするのは当然です。
 ただその場に、何故かゾロリが邪魔をしに来ているだけですから」
「そんなにも頻繁にゾロリに会っておいて、その関係をしらばっくれるつもりなのかっっっ!」
ガオンは勢いよく机を叩く。その上にあるティーカップなどの全てのものが一瞬宙に舞う。
 狼の牙の隙間から、堪え切れない怒りを孕んだ吐息がゆっくりと漏れる不穏な音がする。
 だが、それよりもエージェントは王子の言葉の方が気にかかった。
「……………………関係?」
何かがひっかかる、と同時に、それが解ければ全てが理解出来るような気がする。
 ロジャーのその考えは正しかった。ある瞬間、彼は頓悟した。
 ―――まさか、まさか、まさか、この王子。

「あのガオン王子が既にお気に入りの相手がいたとはっ!
 あっはっはっは、それがあの小汚いキツネだとは、素晴らしいスキャンダルですねぇ。まったく」

だんっ、と再び机を叩いてガオンは立ち上がった。
 ロジャーも立って対峙する。
「……なんだと?」
「……なんですか?」
 部屋の空気はさらに冷たく息苦しくなる。だが、闘気を立ち上らせる二人の男には関係はない。その後何が起こったかは永遠にロジャーは記憶の底に封印することになったという。



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