[ [ [  A bad boy and a bad girl 2  ] ] ]

 
 「今日、ダポン先生の授業があってね、時間が余ったから皆にせがまれて今までで一番吃驚した話をしてくれたの。
 最後に、作り話ですからね、って笑って言うんだけれど……」
「じゃあ作り話なんじゃないかしら?」
ミリーは即座に切り返す。
 ―――が、それで納得できるならば、こんなに決心して尋ねたりはしない。
 ダポン先生は、嘘が、とにかく、洒落にならないほど下手だ。あの冷や汗と狼狽する様子と落ち着きのない目の移動は何かあるときの顔だ―――と、クラスの全員が確信したくらいだ。小学校二年生すら欺けないなんて、よくもまあアレだけの大事件を起こせたものだとネリーは呆れながら内心ぼやいた。少女は幼すぎる故に知らないのだ、大概の悪事とは嘘をつかなくても出来ることを。
「そうかも、しれないけれど。
 皆、気になったから、その後で教頭先生に校舎が燃えたかどうか聞いてみたのよ。そしたらいきなり眼鏡を探し始めて、頭を抱えて沈んでしまって、話してくれなかったわ。校長先生も。
 でも、校舎の二階の隅に焦げた跡があるの。
 …………やっぱり、燃えた?」
「うーん、まぁーえぇーっと。どうだったかしら。
 お姉ちゃんは知らないかなー」
 同じ学年だった姉が知らないということは、やはり、自分はダポン先生に騙されているのだろうか?
 ネリーは純粋な気持ちで言葉を繋げる。
「……ダポン先生、クラスの魔法使いの少女とちょっと小競り合いをしたら校舎燃えて驚きました、とか言ってたんだけど」
「げっ、そこまで…………」
姉の洩らした一言を、耳聡く拾い上げたネリーは、大きな目を不審げに歪ませる。冷たくなった視線を肌で感じながら、ミリーは慌てて咳払いをした。
「ううん。ええと、その、ダポン先生はどんな作り話をしてくれたのかしら?
 教えてくれる?」
不審が嫌な方向の確信に変わる前に、ミリーは少女に思いのままを話せることにさせた。気になっていることは口に出すと少しスッキリする。それに、この動揺を鎮めるには少し時間が必要だ。
「うん、あ、そうだね。
 ダポン先生、昔ちょっとした理由で給食に『目の回る青い花』を一本入れたら、学校中全員昏睡しちゃったらしいのよ……」
妹の話しに適当な相槌を打ちながら、秀麗な顔に冷や汗をたらして必死に思いを巡らせる。
 何か、何か良い言葉はないだろうか。妹が問答無用で作り話だと納得できるような。
 妹に危害を加えた相手に復讐する方法は一瞬で何種類も思い浮かぶのに、こういう類の思考は苦手なのだ。
 考えているうちに、昔の記憶が芋づる式に思い出されて大作映画のように流れる。少女が語る話は、その映画の中のワンシーンにきちんと含まれていた。

 嗚呼、だが、その話の顛末は、妹だけには知られてはならない。昔の話は知らなくて良いのだ。

 *****

 ダポンとミリーは同級生だった。
 しかもクラスを、否、学校を真っ二つにしてその頂点に立ってお互い睨みあう、親の仇同士のような関係だった。
 反乱派のミリーと生徒会派のダポン。
 何気に魔法の才能に恵まれていたミリーが洒落にならない規模の攻撃魔法を繰り出せば、ダポンは超高級魔法薬で応戦する。その上、生徒会長のロジャーを唆して悪法としか言いようのない校則を作り出して、婉曲的にミリーたちの首を絞めてきた。魔法の箒での登校禁止令が出されたときには、本気で殺意が湧いたものだ。
 その頃のことを思い出すと、流石のミリーでも、少しはお転婆だったなぁと思う。先生たちに言わせればあれをお転婆とは呼ばないらしいが、まあ十年前の記憶だから色々と齟齬はあるものだ。そういうものだ。
 ダポンは生徒会長のロジャーの権力を笠に着て悪行三昧をし尽くしていた。だから矢鱈滅多ら無駄に素敵に反抗したのである。その結果として多少魔法学校の一部を消滅させるようなことをしたとしても、まあ、仕方が無かったのだ。

 そうか、アレ、『目の回る青い花』だったのかー。……ってダポンさん、本気であの時殺ル気だったのねぇ……逆恨みにも程があるけれど。

 彼が給食に薬を混ぜた事件は、壮絶で煌びやかな三日間の想い出のフィナレーにあたる。
 一日目の舞台は、夏祭りの夜。魔法学校の傍の神社で毎年開かれる、生徒たちが一番に楽しみにしている行事だ。
 学校では九時には帰るように命令されていたが、ミリーたちは十時過ぎてもその場にいて祭りを楽しんでいた。違反するといえばそうだが、楽しかったのだから仕方がない。それに、九時で帰ってしまう生徒の方が珍しいのだ。子供たちは時を忘れて、非日常を全身で味わっていた。
 ところが。そんな興奮気味の彼女たちは、薬を仕込んだ吹矢で射られてトリップ状態になってしまった。あわや警察に保護されかけて、逃げてなんとか誤魔化すことができたのであるが、後一歩遅ければ学校からの呼び出しレベルではすまない話になっていただろう。
 そんなこんなで翌日の月曜日、ミリーはバッドトリップした友人たちと共にダポンをロケット花火で追い掛け回した。知らないですよーと狸は言ったが、誰が信じるものか。ロケット花火千本を分け合って、校舎内で派手に乱戦状態。勿論生徒会役員と会長のロジャーが出てきて事態の鎮圧に乗り出したが、それを見越して色々用意しておいたのでその時はミリー側が完全勝利を収めた。
 甘美な勝利の味を思い出して、知らぬうちに頬が緩む。

 なかなか完全勝利は難しいのよねー。だいたい痛み分けか他の原因で終わっちゃったし。あの時のダポンさんの泣き顔と先輩の悔しがる顔、見ものだったわー。

 そして、さらにその翌日、午後の授業が始まった途端にばたばたと人が倒れる事件が発生した。ダポンの話を統合すると、あれは『目の回る青い花』のせいなのだろう。
 ただ、倒れるだけならば、まあ多少は遣りすぎの感があるにせよ、記憶にそこまで残らなかったのだが―――


 
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