[ [ [  A bad boy and a bad girl 3  ] ] ]

 
 妹の話が一段落ついた瞬間を狙って、ミリーはことさら明るい声をあげる。いい方法を思いついた。

「校舎が火事なんて多分絶対ないわよ。
 ダポン先生の作り話に決まってるわ。『目の回る青い花』を給食にいれるなんて、そんなことないって。
 でもね。どんな人も子供の頃は一杯失敗して、今があるんだから、ネリーも他人をちくわに変えたくらい気に病むことは無いのよー」

 笑顔を作って繰り出したのは大人の必殺技。無関係の方へ話を逸らして耳に良い結論つけ纏めてしまおう大作戦。
 ―――が。
「うん……。
 それ、校長先生と教頭先生と食堂のおばちゃんも言っていた。
 お姉ちゃんやダポンさんやロジャーさんに比べれば、全然大したことないって。失敗から反省する気持ちがあるから百倍ましだって。……何をしたの、昔?」
なんだか逆に別の墓穴を掘ってしまったらしい。
 かき揚げをネリーの皿によそいながら、話題つなぎに、えーっと、と呟いてみる。
 しかも、少女の気を逸らせなかった。

「……あのさ、お姉ちゃん。
 前に、眠っている友達を起こして救ったとかそんな話してくれたわよね」

う、とミリーは小さな呻き声を漏らす。
 やはりその話を思い出してしまったのか、妹は。
 とうとう自分の最も尋ねたかったところまで話しきったネリーは、身体を乗り出して突っかかってきた。
「緊急事態でも、焦っちゃ駄目って話してくれたこと。覚えているでしょ?
 今、とぉぉぉぉぉっても気になっているんだけれど。
 ……どうしてその人たち、眠っていたの?
 そして何で、眠っている人を救けなければならなかったの?
 ていうかなんでお姉ちゃんだけ眠ってなかったの?」
畳み掛けられるようにして投げ出された質問に、今度はミリーの瞬きが不自然に早くなる。きょときょとと動く視線。滝の如く流れ落ちる冷や汗。
 少女は重苦しい溜息をついた。
 ―――ダポン先生も嘘が下手だが、姉もどうやら同種のタイプらしい。
「え? ええと、なんだかお昼の授業で、皆ねむっちゃったのよ。
 暖かかったから。うん、そうよ。そうそう。
 そ、そ、それで、地震か何かおこったんじゃなかったかしら。だからええと、助けなきゃって……」
 ぱちん、と妹が音を立てて箸をおいた。
 その音に、ミリーは過剰反応にも肩を震わせて言葉を切る。
「お姉ちゃんっ」
真っ直ぐに、小さなハリネズミは見つめる。……ミリーには、自分だけでこの少女の誤解を解くべき手段が、もはや、思い浮かばなかった。
 ミリーの記憶の映画のフィナーレ。
 それは、まあ、つまり、小火騒ぎだ。
 ダポンの毒薬は、投薬した本人と、人参嫌いでシチューを食べなかったミリーだけが摂取せず効果がなかった。
 遅効性のそれが効き始めたのは、午後の授業が始まって直後のこと。
 ばたばたと友人や教師が倒れるのを見て、彼女は即座に戦闘態勢をとった。こんな真似をするのは一人しか思い浮かばなかったからだ。
 幼い時から戦闘系魔法は得意だった。特に、炎系が。
 ダポンもミリーが動いたことに直ぐ気づいて、密室にもかかわらず、魔法の薬をふんだんに使って応戦した。
 気化した魔法の薬の一部と、炎の呪文が組み合わさる。
 それに粉塵爆発と密閉空間と気候と温度とその他諸々の素敵条件が重なって―――

 校舎が燃えた。

 魔法学校の校舎は、校舎保護の薬もたっぷり塗ってあるし、魔法具もついているし、防御魔法が幾重にもかかっている。理科室で爆発があったくらいでは上の階は振動すらしない。
 そんな校舎が燃えたのだから、その時ばかりは、ミリーもダポンも慌てて戦闘を中止して、他の生徒の救出にとりかかった。あのときの二人の焦りっぷりは今でもよく覚えている。
 炎の熱さで起き上がった教師たちは、目が覚めたら辺り一面が火の海だったので、犯人探しとかそういう前に直ぐに消火作業に加わった。もっとも火の回りは遅くて大事には至らなかったのだが。
 その後ダポンとミリーはこっ酷く叱られそうになったが―――。

「私は早めに起きただけですよ。ミリーさんと同じくらいかな。
 その時には最早火が燃えてました」
「ええ。私もダポンと同じくらいに起きました。
 そのときには教室の一部が燃え始めてました」

と、二人口を揃えて言ったため、証拠不十分で推定無罪となった。あの教師陣の冷たい視線は今でも記憶に残っている。こういうときだけは、悪戯っ子二人の結束は強かったりするのだ。



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