[ [ [  Good night. 2  ] ] ]

 
 頭……痛いし、ったく、吐き気もするし。
 半目を開きながら、ダポンは冷静に自分の症状を分析する。食事が終わっても身体の疲労感が取れないので、朝食が終わったその席にすわってぼんやりと窓を眺めていた。毎朝来る小鳥たちは食事が済んでもなおそこで戯れている。その愛らしい歌声さえ不快な高音にしか聞こえない。
 昨夜無理やり飲まされた薬に、何の薬草が使われたのかはおおよそ把握できた。疲労回復や精神安定剤などの中には、性的ホルモンを刺激したり分泌を促したりする薬草がいくつかある。その『副作用』も彼は知らないわけではない。どうやら昨夜の薬は、それらの数種類を適当に精製して、『副作用』を強めるようにした上で、シロル草液に溶かして飲みやすくしたものだろう。ダポンとて同じ効能の薬を求めたら、おそらく同じ種類の薬草を選んだだろう。だが、精製方法に使う薬剤の質は絶対に別なものにするし、精製は二度以上はするし、シロル草の液に溶かすなんて馬鹿な真似はしない。
 効くは効くが、粗悪なつくりにも程がある。
「副作用も体力的負担も使用後の不快感もあるって、それ薬じゃなくて毒ですよ。
 ……あの手の低級で安物の市販薬を私の目の届くところに持ってくるのは止めていただけませんか?」
ダポンは目だけで睨みながら、窓際に立っていたロジャーに悪態づいた。だが、朝の一服をふかしていた魔法使いは朝日を浴びながら笑顔で振り返る。
「そう言われても、困りますね。
 優秀な薬剤師のダポンさんが、望んだ魔法薬を作ってくれないのですから。
 それに、その手の大手通販サイトでは一番良い値段がついていた、非常に高いもの。低級とは心外ですよ」
昨夜思い通りに出来たのでかなり上機嫌なのだろう、口調まで外面用だ。
「だーかーらっ。
 そんな無意味で低俗な薬を、まともな薬剤師がわざわざ作るわけないでしょう。まともな薬剤師が作ってない薬は、どんな副作用が出るかわからないから危険なんですよっ! わかっているんですかっ!?」
身体を起こして啖呵を切ってみたが、すぐに眩暈が襲ってきた。
 椅子にぐったり全身を横たえると、吸いかけの煙草を灰皿に潰したロジャーが近づいてくるのが見える。魔法使いはダポン腰掛ける椅子の背に手を置いて、顔を覗き込んできた。外国煙草の独特な匂い、頭が痛い今にはかなりきつい。がんがんと頭痛が二重奏になった気がする。
「副作用? ほう、どれどれ?」
「すっっっっごく気分悪いんですが」
細い他人の指が、ダポンの右頬をくすぐる。
 息の掛かる距離で、男は言った。

「どうせお前の得意な嘘だろう?」
 
 きらりと光る赤紫色の瞳。
 今は穏やかな表情だが、何か言えばそれは直ぐ豹変する可能性を秘めている顔だ。
 嫌な目だ、とダポンは内心毒づく。
 彼の気持ちが手に取るように読める。

 ―――俺の言葉に逆らうな。

 ダポンは反抗的な目をして口を真一文字に結び、無言で非難した。ロジャーは右手で髭をひっぱったり、毛を逆立てたりして弄んで時間を潰す。その笑み。本気で殺意が湧く。
 先に根負けしたのは、ダポンだった。
「……では、目に見えるようなはっきりとした副作用が出た薬は、使うのは止めて頂けませんか? たとえ無駄金を払って買った高級という名の非常に胡散臭い薬であったとしても、人それぞれ体質というものがあるので」
「仕方がないな。
 ―――だが、副作用が出なかった薬は好きに使わせてもらうぞ。
 今夜もまた楽しめそうだ、なあ、ダポン?」
ぺろりと唇を舐める。
 肉食獣の気迫を背負って獲物を見つめるが、流石町を一つ破壊したことのある狸は動じた様子はなくまっすぐに見返してきた。

 売られた喧嘩は買うまでだ。

「副作用が出たら絶対に止めて下さいよ。
 ……そう、副作用が消えるまでは絶対ですからね」


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