[ [ [  Good night. 3  ] ] ]

 
 ダポンの強気の態度が気にならないといえば、嘘になる。彼の頭の回転の速さは身をもってしっている。情報局のエージェントたちのあれだけ厳重な包囲網をかいくぐって、ソースの気球を町に飛ばした男なのだ。
 例の魔法薬を自室の金庫の閉まって、夜になるまで魔法をかけて厳重に扉を封印しておいた。そして、食事以外の用件では今日は一歩もこの部屋から出なかった。
 いくら悪賢い狸とはいえ、これでは手のうちようはないだろう。
 ……多分。
「てなわけで、飲め」
と、ロジャーはつらつらと今日のことを思い出しつつ、ぐいと小瓶を差し出して言った。
 量は昨日の半分。
 寝台に上って眠ろうとしていた狸は、それを見て、ああと暢気な声を上げる。
「そうでしたね」
彼は昨日とは違ってそれを受け取ると蓋を開く。その瞬間、にやり、と上目遣いに狸は不敵な笑みを浮かべた。
 どきりと跳ね上がる魔法使いの心臓。
 あーん、と大きな口を開いて、躊躇なく一飲みする。薬剤師でその飲み方はどうよというツッコミすら過ぎらない。
 何だ、何があるのだ―――
 困惑しながらも、ロジャーは呪文を唱えた。人差し指に集まる光球が、昨日のようにダポンの身体にぶつかる。
 一瞬、狸は眉根を顰めた。だが、昨日のような悲鳴はあげない。ただ悪賢い笑みを浮かべているだけだ。
 みるみるうちにダポンは変わっていった。そう、見違えるように。

 紫色になった。

「あ。出ましたね、副作用」
掌を見て、ダポンは嬉しそうに呟く。身体には昨夜のような苦痛も変な状況も一切現れていない。素晴らしい効果。さすが自分だ。
 昨日の味から使われた薬草を分析し、その薬の効果を打ち消しなおかつ身体の体毛を変える成分を付け加え、さらにあの低俗な薬の副作用を低減する作用を付け加えた。何より最後の効果を引き出すのに一番苦労した。しかも薬の量がわからないのに、これ程まで正確に対応できるとは、自分の才能が怖くなりそうだ。
「何ぃぃぃぃぃ―――っ!?」
「副作用が出たのでこれが消えるまでは無理です。あー、頭が痛い痛い。
 ではお休みなさい」
そう声をかけて、布団の中にくるりとうずくまる。昨日の無茶な行為の所為で横たわれば直ぐに眠気は襲ってきた。
 ロジャーは嵌められた不満に幾分迷っていたが、狸の安定した寝息を聞いているうちに、仕方ないという気分の方が強くなってきた。彼の方が年下で、確かに昨日は無茶をさせたのは事実だ。食事も凄くゆっくりしか食べれないようだったし、なにより、半日以上リビングの椅子の上で気分悪そうに横たわっていた。今日は休日だったが、明日は彼も魔法学校へ行く日だ。

 ……本当は、彼を苦しめるつもりはないのだ。一緒に楽しい思い出を作っていたい、それだけなのに。

 自分は得てして遣り過ぎる。大きく溜息をついてから、寝台の横に腰掛けた。
 狸寝入りかと思ったが、これは本当に眠ってしまったらしい。
 その額をくいくいと指先で弄ってやると低く呻いて首を振っている。ようやく、最近になって、毎晩の寝言から悲鳴が消えた。本当に『ようやっと』だ。
 ロジャーは呻くように呟いた。
「……お前は、まったく、可愛過ぎる」
自分がやりすぎるだけが悪いわけじゃない、という言い訳は、果たして誰が認めてくれるだろうか。
 再度嘆息して。
 ロジャーは愛しの君の横の布団に潜り込んだ。


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