[ [ [  Hang in there! witches and wizards,  ] ] ]

 
 「おい、ロジャー。
 ……ダポン、凄いじゃないか」
「は?」
同僚は曖昧な笑みを浮かべてやって来た。白い毛が赤く染まるくらい、何故だか興奮気味だ。
 食堂でバランスのよい持参弁当と珈琲をとっていたロジャーの横に、今日のランチAを持ってきた同僚がどかりと座り込む。そして、なにやらツイツイと肘でつついて、ぐふふふと不気味な笑い声をもらしている。
 気持ちが悪いと思って払いのけたい気持ちもあったが、ダポンという一言がどうしても心に引っかかった。
「いや、だからよぉ。例の薬、使わせてもらったんだな、俺の家で。もう凄くてさ、かみさんも俺も大満足?つーの? パチンコフィーバーしっぱなし。
 本当、いやぁ、ああいう薬こそお願いしてぇーよあいつには。
 流石天下一の魔法薬剤師だぜー」
「薬? ……ダポン、が?」
「だーかーらー。そう言ってんじゃねえか。
 例の最近出した薬だよぉ。
 みなまで言わせるなよ、恥ずかしいなぁ、コノッ、コノッ。
 何? もしかして俺たちの昨日のレジェンド聞きたい? 聞きたいのか、お前も好きだなぁ〜。あはははは」
顔を真っ赤にしてジタバタしている同僚からこれ以上有意義な情報が聞き出せそうにもない。どうしようか考えあぐねてロジャーが止まっていると、その様子に聞き耳を立てていた男たちがチャンスだとばかりに立ち上がった。
 がたがたっと椅子の引き摺る音。

『おまえもアレ買ったのかっ』

どかどかっとロジャーの周囲に同僚(男)たちが昼飯の乗ったトレイを持って詰め寄る。しかも親しくない者まで近寄ってきている。え? とエリートの目が点になる前で、小声で始まる猥談大会。
「いやあれ、すげえよな」
「他のとは大違いだぜ」
「やっぱり? 値段も手ごろだからどうしようかと思ってたんだけどよー」
「直ぐ買ったほうがいいぜ。売り切れてからじゃ遅い。いやもう、今でも売り切れるかもしれねーぜ。
 お前、彼女作るなら絶対買え。どうでもいいから買え」
「そうか」
男たちは互いに自分の経験に基づいてその効能を褒め称える。おそらく彼らの彼女が聞いていたら憤死か殺戮かをしそうな内容だったが、一人が言い始めると止まらなくなってしまうのだ。
 あの快感、あの状態、そして相手の女性の乱れっぷり。
 思いを語る男たちの心が一瞬一つになる。
 いつまでたっても話が途切れそうになかったので、コホン、とわざとらしくロジャーは咳払いをした。一瞬で、注目が集まる。彼らは全員、ロジャーから直接ダポンに交渉して安く譲ってもらいたいと考えていた。先日からずっとその機会を伺っていたのである。
 まあ勿論、交渉ができなかったとしてもロジャーには話しかけたかった。薬剤師に余裕があるならば『他の薬』も出して欲しい、と直接に伝えたい。一人の使用者、いや、一人の男として。
 最優秀エリートが話し相手に選んだのは、一番初めに話しかけてきた男だった。
「……話が読めないのですが。
 ダポンが新しい薬を出したのですか?」

と、予想外のその一言に、全員の顔が凍てつく。

 何故、どうして、この魔法の国で最近の一番の話題をお前が知らない。
 尋ねられた男は、詰問するような赤紫色の目に一瞬たじろいだ。
 が、直ぐに気を鎮めて人差し指をくるりと回す。テーブルの中央に水晶が現れた。水晶は柔らかな光を帯びて、中空に画面を映し出した。
「あー、ええと、つまり、そのさ」
彼が指を左右に動かすのにあわせて、水晶は次々に画面を写し出す。魔法の国独自の情報一元化システム―――通称、ネット―――にアクセスして、その情報を取り込んでいるのだ。
 そして、彼の指が止まった。
 ダポン薬局のHPの、通販のコーナー。一番下の欄にそれはあった。

『最新薬:性欲増強剤。
 普段無意識下で抑えている欲求を一時期的に外し、かつ、性的本能が司る神経を過敏な状態にさせる。魔法はLV1〜LV2で可能。LV6は使用不可。
 身体への影響、使用後の不快感は極力少なくしているが、30歳以上は連日は使用不可。
 薬を処方されている方、心臓の病気のお持ちの方は、必ず医師に相談の上で使用すること。』

「これこれ。凄いだろ?」
淡々とした説明だが、流石優秀な魔法薬剤師、的を得ている。
 ただのエロ薬もまともな薬剤師が作れば根本的に違う。『貴方の男根がまるで別の生き物にっ★』なんて一言もないが、間違いなく効く様に思えるのが不思議だ。
 周囲の男たちは顔を見合わせて、小声でなぁなぁと囁きあう。値段も確かに手頃。まだ買っていなかった男たちは一生懸命メモっている。


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