[ [ [  再会編 1  ] ] ]


 ロジャーとダポンは、情報局主催の新年会のパーティで再会するのですが、その時ダポンはロジャーをまるで初対面のように挨拶します。それにちょっぴり傷ついたエージェントは、復讐してやると誓う。
 父が亡くなって経営を告ぐのですが、情報局からの収入の三割減のために支払いが滞りそうになり、若社長は金策に東奔西走しなければなりません。
 しかしそんな支払いがすぐに願えるような顧客はそういません。
 ダポン薬局は品質最高・特殊魔法薬各種取り揃えの名の通った老舗薬局なのですが、高い。
 困っているところへ、ある医療団体からお誘いがきます。悪評高い『桔梗会』(笑)。
 その代表者に持ちかけられたのは、魅力的過ぎる条件。メンバー内で必要な魔法の薬を2000万以上一括購入して、しかも今月中に現金で支払う。その代わり、この会の慰安旅行に付き合って欲しい。
 どこで噂を聞きつけたのか、ダポン薬局の若社長は体を使って営業することを厭わないと確固たる情報をつかんだ代表者。あまり関わらないほうが良いと経営者としての勘が告げるのですが、この経営状況にこれほどの願ってないことはない。
 逡巡したものの、ダポンは首を縦に振ることを選びます。
 ―――といより、否定は出来ないというか。
 代表者に指定されて通りの変身をして「ある旅行の同行」。魔法が使えない少女として出品され、弄ばれて、人として扱われず、一瞬発狂しかけるとさらに虐待される。たった三日の間でダポンのトラウマが深まるのはさておいて。

 ******

 情報局ではロジャーが率先してダポンを詰るので、それに他の魔法使い達も便乗。
 新しい薬の使用感を試すためと称して攻撃したり、「お前の薬が悪いから、怪我が治るのが痛かった」と難癖をつけて同じ様な怪我を負わしてそれを治す。ある程度以上のレベルが使える魔法使いは痛みがコントロールできるので、罪悪感が薄い。さらに、ダポンはさほど痛がらないので事態に拍車をかける。
 そんな中、ロジャーは、情報局の中のエージェント部門の魔法薬の購入の役職につきます。
 さらにダポンを苛めてやろうという魂胆です(オイオイ)。
 始めの契約更新の時、ダポン薬局の薬の値段に散々嫌味をつけ、文句をつけ、安くならないものかと詰ります。高く売りつけているのじゃないかとか、お前の店以外もあるんだぞ、とか。
 ダポンは契約更新を少し諦めていたのですが、ロジャーは渋々といった態度で一応既存の状態で更新を承諾します。その腹で次はもっと酷いことを言ってやろうと考えていたり。
 その時、ふと薬剤師は気づきます。
 客席から見える位置にあるテーブルに、お皿にお菓子があること。
「……あ。クッキー」
ダポンはつい口に出してしまうのです。
 図々しい奴と思いながら、どうぞ、とロジャーは鬱陶しそうに魔法で皿を飛ばしてきます。差し出すと、苦笑して首を振る薬剤師。
「す、すみません。
 貴方のかと思ったので、つい」

 ……… …… … ・ ・ ・?

 エージェント、目が点。
 ダポンの言った意味が理解出来ない。
 はっと正気づいて、慌てふためきながら問い詰める。
「……市販のだが、ええと、わ、わかるのか?」
「も、申し訳御座いませんっ」
ロジャーを怒らせたと思い頭を下げる薬剤師に、違う違うと精一杯否定して顔を上げさせる。
「いや、だから、その。
 その……―――……コホン。
 生徒会で、た、食べたときのこととか……だから、覚えているのか?」
「あの時のクッキー、のことですか。
 それは勿論、薬剤師ですから、香りや味くらい覚えていられますよ」
ロジャーは完全に忘れられていたと思っていたので、ダポンが自分をしっかり覚えていることに混乱します。
 脳内で幸福の鐘が響いてもう一杯一杯のエージェント。
「……新年会で、初対面、みたいに、言わなかったっか?」
動揺を抑えつつロジャーが尋ねると、今度は困惑するのはダポンです。
 てっきりロジャーは自分との昔のことを思い出したくもないだろうと思っていたので―――だからクッキーの口を滑らしたことを怒らせたと勘違いしたわけですが―――なんと答えれば良いのかわかりません。
 暫くして。
「お互い、癒着とか取り質されると怖いでしょう」
と、苦笑。
 こうして契約の継続が確定。
 ロジャーは誤解が解けてほくほくです。

 ******

 『桔梗会』の人々は魔法の使えない相手を甚振る余興をいたく気に入り、一回限りという約束だったのですが契約の延長を申し込みます。ダポンは体力が限界になりそうなので断ろうとするのですが。
「医学会に、君の薬局の変な風評が立つのは怖いだろう?」
と脅されて渋々承諾。
 悪いのには引っかかるんじゃないなぁ、と反省。
 確かに大口契約であっても、リスクがこんなにも高いのは商売には向かない。この代表者は医学界の大御所の病院の理事長で、なかなか無碍に扱うことは出来ないのです。
 代表者の男は、ダポンの『無力』なくせに『賢い』ところに、酷く性的な支配欲刺激される。目を付けられてしまう。

 ロジャーは魔法薬の納入を引き受けることになって色々と見るのですが、やはりダポン薬局の薬が高い。それを契約の度にちょっぴり文句を言うのですが、精一杯のところですと言われてしまう。
 しかし、今までの経理を見ていてある日気づくのです。
 ある月だけ、異常に安いことに。
 そして、契約の条項に。
 ―――自分が補充を阻害した所為で、三割もの金額が払われなかったということをようやく知ります。
「遅くなってしまったが、あの時の損害分を……」
「いえいえ、いいですよ。
 こちらも長くお付き合いさせていただいているんですから。それにあの件で、経営努力というか、良い勉強をさせて貰いました」
ダポンは笑顔で答えます。ロジャーは私費で、きちんと損害分に利息を上乗せした金額を口座に支払っておきます。

 薬剤師としての仕事、社長としての営業、材料集めの出張、さらにはいくつかの特殊営業。多量の仕事に追われて休む暇もない。しかし彼は、どれだけ大変でも、深夜まで薬学の研究と新薬の開発に手を抜きません。
 その努力が結ばれて、以前から研究していたある特殊な手術用の魔法薬の研究を完成までもっていくことができ、期限ギリギリに魔法薬学会へ送付します。ダポンは魔法薬学会の賛助会員(学位がないので正会員になれないから)。そこで幾度か新薬の発表をしているのですが、なかなか良い評価を得られません。でも決して諦めない。
 そこでは年に一度、学会で発表された研究について栄誉ある賞が贈られるの狙っているのです。
 そんな大変な生活の中で唯一の安らぎは、魔法学校の薬の補充です。昔の先生達と話したり、生徒を眺めたりとそのときだけはダポンもちょっとだけ心が休まるのです。


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再会後3〕 〔再会後4〕 〔3.封印後〕 〔4.裁判前