[ [ [ 再会編 3 ] ] ]
ある日、魔法の森へ材料を取りに行っているときに『お探しの魔法の本』を偶然見つけてしまいます。
「あー、エージェントに渡すべきなんだろうなーでも内容書き写してからにするかー」
と拾い物に対して返す気皆無のド悪人。
良い研究材料を得て、きっとまた面白い研究が出来るかもしれないとウキウキです。
少しでも凄い薬を、新しい発見を、と、ダポンの研究欲は止まりません。
*****
それはともかく、ロジャーという存在がリアルになって弱い薬剤師の精神は一気にバランスを崩していきます。
実は、異常な程に『痛い』のが怖い。
―――痛いの怖くて、怖くて怖くて見えないと思い込んで、痛くないと暗示をかけて暮らしてきていたのです。
その措置は、魔法の国で生きるには良い手段だった。ゆえに、その異常性には彼の周囲は誰も気づきませんし、亡き父もわからなかった。ただひっそり病んでいった。
しかし今回はその暗示が裏目に出てしまうのです。
例の桔梗会は痛めつけるの見物。
代表者の男はこの薬剤師の頑固すぎる思い込みを見抜き、その態度が気に入っているので、彼の精神の限界を超えたところから余興が始まります。
毎月極限状態に追い込まれトラウマがどんどん深められていきます。
見世物になるのもいい、無様な真似をするのも笑われるのも別にいい。でも、痛いのだけは堪えられない。
そして一方、日常の生活では、昔のような親しい関係になったと思っているロジャーが仕事以外にもちょくちょくと顔を出してきます。
ですが、彼こそ顔を焼いたり気を失うまで暴行を加えてきた相手。
その時の痛みが夢の中で繰り返し再現されて苦しみを幾度も味わいます。
今まで大丈夫だったロジャーとの情事も、桔梗会のことも、怖くて怖くてたまらない。
震えが起きて、平静を失い欠けて、それを誤魔化すために薬を服用するのですが、そのために睡眠などの基本生活部分が崩壊していく。
薬の所為で胃が荒れて食事は殆ど吐き出してしまい、栄養剤でぎりぎり補う。
ですが、父を失った今、この薬剤師を案じる人はこの世にはいない。
狂気を薬で抑えて、独り部屋に丸くなって朝まで僅かな睡眠をとる日々が続きます。
*****
衰弱した中で、やはり例の会に命令された日にホテルへ呼び出される。
それを、たまたま同じホテルまで要人を送りに来たロジャーが見つけてしまいます。
変身しているのですが、声帯を押さえる特注の首輪で一発でダポンだと判明。彼は他の人に体を許していると誤解して、怒りに任せて薬剤師を追いかける。
驚いたのはホテルにいた会のメンバーで、エージェントに自分の会の内容がばれたのではないかと焦る。全員それなりに社会的地位がある上、非合法なこともいくつかしているので困るのです。(まずそもそも要保護者=ダポンに怪我をさせるのも違法。その場で回復させた場合は
なんとかぎりぎり合法)
エージェントに捕まったダポンは、理由を迫られて簡単に答えます。
「ただの営業ですよ」
その言葉が信じられなくて、散々喚く。
「お前は言われれば誰にでも何でもするのかっ!?」
「勿論です。
お客様のご要望は出来る限り対応させていただきますよ。
でしたら、是非おっしゃってください。どのような相手が好みで、どのような手法を希望されるのか。一応これでも多少はご希望に沿う相手に変身できると―――」
お客様、と、呼ばれたあまりの衝撃に、目の前が真っ暗。
そして、呪文を口ずさむ。
それは昔顔を焼いた、火の呪文。
怒りを現す―――ついでに脅す―――ために、ちょっと近くのベットの一つも焼いてやろうとそんな気持ちです。
が。
今の薬剤師には彼の攻撃はリアルで痛い。夢で何度も何度も味わった痛みが全身を駆け巡る。
しかも今から生贄になるというまさにその時。
非常不安定な精神状態。
細い一本の線で保っていた理性はいとも簡単に切れてしまう。
半錯乱し、どうしても逃げたいと、魔法から逃げたいと、死に物狂いで、ロジャーを退けて真っ直ぐに走り出します。
瞠目したエージェントが気づいて止めるよりも早く、窓から飛び降りる。
どさ。
―――と、重い音。窓から身を乗り出して見れば、石に叩きつけられて、血を流し、ダポンはぴくりとも動きません。
そのまま病院に連れられて、左半身打撲で左足の骨折で緊急入院。
*****
病院までロジャーが付添いでついてくる。
そして、何故あんなにも怯えたのか、その理由を聞き出そうとするのですが、さらりと流されてしまう。
この時にはもはやダポンはいつもの笑顔に戻っています。
「ご心配をおかけしました。
病院に運んでくださって、本当にありがとうございます。
……こんな年になっても魔法があんなにも怖いなんて、恥ずかしい限りですね。ちょっと驚いてしまっただけなんですよ」
「いや、だが……」
「すみません、最近仕事が立て込んでいた所為で疲れてて。
本当に申し訳御座いません」
その顔に、エージェントは騙される。
痛いはずなのに、笑う。その矛盾は決して他人に見せない。
この一件のお陰でホテルにいた会のメンバーにダポン薬局がエージェントと繋がっていることが知れ渡り、代表者は名残惜しみつつも関係を切ると言い出します。
しかし代表者は、「エージェントに密告するな」と脅し、かつ、多額の慰謝料を請求します。ある種八つ当たりなのですが。
ダポンは分割ですがお支払いいたします、と約束します。慰謝料分ならばなんとかこの前ロジャーから返してもらった損害分でなんとかなる、と素早く計算。
薬局の従業員達は、社長が遊びでホテルにいって怪我をしたと思っているので、普段に輪をかけて冷たい。というか酷い言葉で詰るばかり。
例の会の営業先も無くなると知り、従業員たちは怒ります。
曰く、社長の努力が足りなさ過ぎる。
曰く、遊楽で仕事をするんじゃない。
曰く、こんな給料でこれだけ働いていることに感謝しろ。
「無駄な営業先を切りますよ。取引額が低いなら、回らなくていいじゃないですか」
と、言って、筆頭に上がったのが魔法学校。
動けないダポンは謝り倒して、どうかそれだけは、と従業員達を説得します。
打撲による全身の激痛を堪えながらも、何度も何度もただ只管謝る。
―――謝ればいいんだ。それでいいんだから、単純だよな。魔法使いは単純でいい。
一方で、明日からの仕事はどうしようと算段を立てています。
実は、ダポンは今心の底から平静な気持ちなのです。
悩みの種だったあの会と円滑に縁が切れた。エージェントと関わっていると知れば、もう迂闊に手を出してくることはありません。また、ロジャーに対しても、私的に会わなくて済む口実が出来る。
これならば堅実な商売を続けていけばなんとかなる。また経営が安定する。
もっと研究に精を注いで、新しい薬を作って、世紀の大発見みたいな薬をなんとしてでも作り出そう。頑張ろう。そして―――
一人考え込む若社長。
そんなところへ、魔法薬学会から、以前のダポンの送った論文がその学会の最優秀賞の審査にノミネートされたとの電話が来ます。
幸い一番酷いのが骨折だったので数日で退院して良いと医師の許可が下ります。
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〔0.はじめに〕
〔1.学校時代〕
〔2.再会後1〕
〔再会後2〕
〔再会後3〕
〔再会後4〕
〔3.封印後〕
〔4.裁判前〕